短期売買利益返還制度と「保有」の範囲をどう考えるか

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上場会社の株式をめぐり、短期志向の投資家が持分割合5%、さらに10%を超えて取得する事例が増えています。企業統治や資本市場の健全性を考えるうえで、こうした大口保有の動きは無視できないテーマです。

とりわけ問題となるのが、金融商品取引法上の「短期売買利益返還制度」と「保有」の範囲の解釈です。制度間に生じているギャップは、単なる技術論ではなく、市場の公正さそのものに関わります。

本稿では、短期売買利益返還制度の仕組みを整理したうえで、「保有」をどのように解釈すべきかを検討します。


短期売買利益返還制度とは何か

金融商品取引法では、上場会社の役員および主要株主が、6カ月以内に同一銘柄を売買して利益を得た場合、その利益を会社に返還しなければならないとされています。

この制度の趣旨は、インサイダー取引の抑止にあります。実際に未公表の重要事実を知っていたかどうかを問わず、一定の地位にある者については機械的に返還義務を課すことで、疑念の生じる取引を封じる仕組みです。

ここで重要なのが「主要株主」の範囲です。金融商品取引法では、議決権の10%以上を保有する者が主要株主とされます。この10%というラインが、規制の適用を画する分水嶺となっています。


5%と10% ― 二つの基準

一方で、同じ金融商品取引法には大量保有報告制度があります。これは上場株式を5%超保有した場合に報告義務が生じる制度です。

つまり、

・5%超 → 大量保有報告書の提出義務
・10%以上 → 主要株主規制(短期売買利益返還制度)の適用

という二段階の構造になっています。

問題は、10%という基準の解釈です。

実務では、複数の投資家が協調して行動し、全体としては25%を保有していても、個々の名義上の保有が10%未満であれば「主要株主に該当しない」と整理され、短期売買利益の返還がなされないケースが見られます。

これは制度の趣旨からみて妥当なのでしょうか。


「保有」は形式か、実質か

米国証券法では、大量保有報告制度と短期売買利益返還制度の双方について、グループによる実質的な保有を合算する仕組みが採用されています。

株式の取得・処分や議決権行使について協調する合意があれば、形式的に名義が分かれていても一体として扱う、という考え方です。

日本においても、裁判例は「保有」の有無を名義ではなく実質で判断すべきだとしています。そうであれば、協調関係にある投資家が事実上一体として議決権を行使し得る状況であれば、主要株主規制の適用対象と解する余地はあります。

この点は立法の不備というよりも、現行法の解釈問題と捉えることも可能です。


制度間ギャップはなぜ問題か

短期売買利益返還制度は、インサイダー取引を未然に防ぐ「予防的」制度です。その趣旨は、秘密情報に接しやすい立場にある者に対し、短期的な利ざや稼ぎを断念させることにあります。

しかし、形式的に保有を分散させることで規制を免れるのであれば、制度の実効性は大きく損なわれます。大量保有報告制度では実質的影響力を開示させながら、短期売買利益返還制度では形式論で逃れるというのは、整合性を欠きます。

資本市場はルールへの信頼によって成り立ちます。制度間の不合理なギャップが放置されれば、「抜け道」を探す行動が常態化しかねません。


結論

短期売買利益返還制度と大量保有報告制度は、ともに市場の公正性を支える重要な柱です。

問題は、10%基準そのものよりも、「保有」をどのように解釈するかにあります。名義中心の形式的理解にとどまるのか、それとも協調関係を含めた実質判断を徹底するのか。ここに制度の実効性がかかっています。

資本市場の健全性を確保するためには、制度間の整合性を高め、規制の趣旨に即した解釈を確立することが求められます。

形式と実質のどちらを重視するのか。この問いは、企業統治の根幹にも通じるテーマです。


参考

・日本経済新聞 2026年2月18日夕刊「十字路」短期売買利益返還制度と保有の範囲
・金融商品取引法(主要株主規制、大量保有報告制度)
・米国証券取引法(Section16, Schedule13D制度)

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