相続税調査は「預金以外」もこう見ている──保険・貸付金・未収金が問題になる理由

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

相続税調査というと、まず思い浮かぶのは預金の確認ではないでしょうか。
実際、名義預金は相続税調査で最も頻繁に問題になる論点の一つです。

しかし、相続税調査は預金だけを見て終わるものではありません。
調査が進むにつれて、生命保険、親族間の貸付金、未収金や立替金など、預金以外の財産についても確認が及びます。

本シリーズでは、名義預金シリーズで確認した「名義ではなく実態で判断する」という考え方を前提に、
相続税調査において、預金以外の財産がどのように見られ、なぜ問題になりやすいのかを整理していきます。

第1回となる本稿では、まず総論として、相続税調査が「預金以外の財産」をどのような発想で確認しているのか、その全体像を確認します。

相続税調査の発想は一貫している

相続税調査で扱われる財産の種類は多岐にわたりますが、税務署の発想は一貫しています。
それは、「相続開始時点で、その財産は誰に帰属していたのか」という視点です。

預金であれ、生命保険であれ、貸付金であれ、
名義や形式ではなく、実質的に誰の財産であったのかが問われます。

名義預金シリーズで見てきた考え方は、預金だけに限った特別なものではありません。
相続税調査全体に共通する基本的な考え方です。

なぜ「預金以外」が問題になりやすいのか

預金以外の財産が相続税調査で問題になりやすい理由の一つは、
申告時点で「そもそも財産として認識されていない」ことが多い点にあります。

例えば、次のようなケースです。

  • 生命保険は受取人固有の財産だと思っていた
  • 親族への資金援助は「貸したつもり」「返ってこなくてもいいお金」だった
  • 医療費や介護費の立替は、清算する意識がなかった

これらは、感覚的には自然な行為ですが、相続税の世界では別の評価を受けることがあります。

生命保険が必ず確認される理由

相続税調査では、生命保険の契約関係は必ず確認されます。
それは、生命保険が「誰が保険料を負担し、誰が受け取るのか」という構造を持つためです。

契約者、被保険者、受取人の組み合わせによって、
相続税の対象になるのか、所得税の対象になるのか、あるいは非課税枠の適用対象になるのかが変わります。

形式上は受取人固有の財産に見えても、
実態として被相続人の資金で形成されている場合には、調査の対象になります。

親族間貸付が争点になる理由

親族間でのお金の貸し借りは、日常的によく行われます。
しかし、相続税調査では、そのお金が本当に「貸付金」として存在していたのかが問われます。

借用書がない、返済が行われていない、利息の取り決めがないといった場合には、
貸付金ではなく、贈与や生活費の援助と評価される可能性があります。

逆に、形式上は曖昧であっても、実態として返済が行われていれば、
相続財産として貸付金に計上すべきケースもあります。

未収金・立替金が拾い上げられる場面

未収金や立替金は、相続人自身が「財産」という意識を持ちにくい分野です。
特に、医療費や介護費、家族間の立替払いなどは、そのままになっていることが少なくありません。

相続税調査では、被相続人の通帳の動きや、家族間のお金の流れを確認する中で、
こうした未精算の金銭関係が浮上することがあります。

金額が小さくても、積み重なれば無視できない論点になります。

「申告漏れ」より「帰属の誤認」が多い

預金以外の財産に関する相続税調査では、
意図的な申告漏れよりも、「誰の財産かを誤って理解していた」ケースが多く見られます。

本人や相続人に悪意がなくても、
相続税の評価では異なる結論になることがあります。

この点を理解しておかないと、
「そんなつもりではなかった」という感覚と、調査結果との間に大きなギャップが生じます。

結論

相続税調査は、預金だけを対象としたものではありません。
生命保険、貸付金、未収金など、預金以外の財産についても、
「名義ではなく実態で判断する」という同じ発想で確認が行われます。

重要なのは、個別の対策を考える前に、
税務署がどのような視点で財産を見ているのかを理解することです。

次回は、相続税調査で必ず確認される生命保険について、
契約関係と課税関係の整理から見ていきます。

参考

・相続税法の基本的な考え方
・相続税調査実務における財産帰属判断の裁判例


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました