相続税データから読む今後の税制改正の視点

税理士
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国税庁が公表した令和6年分の相続税申告事績では、課税割合が10.4%と初めて1割を超え、課税価格・申告税額も平成27年分以降で最高水準となりました。
この種の統計は「現行制度のもとで、実際にどこに負担が生じ、どの制度が使われ、どこに歪みが出ているか」を示す一次データです。税制改正の議論は理念や公平論で進む面もありますが、最後はこのような実績データに引っ張られます。
本稿では、今回の相続税データから、今後の税制改正で論点になりやすい視点を整理します(特定の改正を断定するものではなく、議論の方向性の整理です)。

1割超が示す「課税対象の拡大」と政策的な含意

課税割合が1割を超えたという事実は、相続税が「ごく限られた層の税」から、「一定の資産を持つ層なら現実に当たり得る税」に移っていることを意味します。
ここで政策的に論点になりやすいのは次の2点です。

  • 課税ベース(課税対象)が広がるほど、税負担の納得性や制度の分かりやすさが求められる
  • 資産価格(地価・株価)の変動がそのまま課税対象者を増やすため、景気・相場の影響を受ける税になりやすい

この状況は、将来の改正議論を「増税か減税か」の二項対立にせず、制度の設計(評価、控除、納税のしやすさ、資産移転の誘導)へ向かわせやすい土台になります。

不動産・株式の評価と負担の出方が論点化しやすい

今回の公表でも、課税割合上昇の背景として地価上昇や株高が言及されています。相続税は「価格の上昇=課税対象者の増加」に直結するため、評価の考え方は政治的な焦点になりやすい分野です。

今後の視点としては、次のようなテーマが議論に乗りやすいと考えられます。

  • 都市部の居住用不動産を中心に、評価上昇が生活基盤(自宅)に波及しているか
  • 上場株式等の価格変動により、相続のタイミングで税額が大きく振れやすいか
  • 「同じ資産価値でも、保有形態によって評価・負担が変わる」部分がどの程度あるか

評価をめぐる議論は、単に税負担の軽重だけではなく、「公平」「恣意性の余地」「徴税コスト」を同時に見られます。評価が複雑になるほど、形式的な節税スキームが増え、当局対応コストも増えます。このトレードオフが税制改正の背景になりがちです。

申告税額の水準が示す「納税資金問題」の重み

被相続人1人当たりの申告税額が過去10年間で最高水準となった点は、税制改正では見逃されません。税負担が上がると、納税のための換金(不動産売却や株式売却)が増え、生活や事業継続に影響します。
税制改正の議論では、次のような方向が論点になります。

  • 物納・延納など既存制度の要件や運用の見直し(使いにくさの解消)
  • 自宅や事業用資産に税負担が集中するケースへの配慮(ただし例外拡大は不公平も生む)
  • 相続時精算課税・暦年課税を含めた生前贈与の誘導設計(相続時の負担集中をならす)

「納税が可能かどうか」は、税の公平以前に制度の持続可能性に関わります。課税対象が拡大するほど、この論点は強くなります。

生前贈与の位置づけは「資産移転のルール」として再点検されやすい

相続税が1割を超える局面では、「生前贈与をどう位置づけるか」が再び注目されます。近年も生前贈与に関する制度調整が続いており、今後も「資産移転を前倒しするほど有利/不利」といった単純な設計ではなく、狙いに沿った制度運用が求められやすい局面です。

改正の視点としては、次のようなテーマが典型です。

  • 相続直前の移転だけが得になる仕組みの是正
  • 教育資金・結婚子育て資金など、目的型非課税の整理(効果検証と制度の簡素化)
  • 金融資産・不動産など資産種類による移転のしやすさの差をどう扱うか

相続税データで課税対象が拡大しているほど、「公平性」と「予見可能性(ルールの読みやすさ)」の優先順位が上がります。

事業承継税制は「利用実態」と「猶予規模」がセットで見られる

公表データには、事業承継税制の適用人数・納税猶予税額も示されています。特例措置の適用人数は一定規模で推移し、猶予税額も大きい数字になっています。
この領域の改正議論で見られやすい視点は次の通りです。

  • 制度が本来の目的(雇用・地域の維持、事業継続)にどれだけ効いているか
  • 猶予が「恒久的な免除」に近くなっていないか、要件は適切か
  • 中小企業の後継者難の現実と、税制が果たす役割の限界をどう整理するか

事業承継税制は「税の軽減」と「政策目的」が結びつく代表格なので、財源論だけでなく産業政策としても見直しが入り得ます。

財産評価基本通達6項の適用件数が示す「評価ルールの緊張感」

財産評価基本通達6項の適用件数が示されている点は、実務的に重要です。適用件数が少ないこと自体が直ちに何かを意味するわけではありませんが、当局が「形式的な評価と実質の乖離」を問題視する局面があることは示唆します。
改正の視点としては、次の方向があり得ます。

  • 争いが生じやすい評価論点について、通達・FAQ等での明確化を進める
  • ルールの明確化と同時に、過度な例外運用を抑える(予見可能性の確保)
  • 不動産を中心に、評価と市場実勢の乖離が大きい場面の扱いを整理する

評価は税制の土台であり、課税対象が拡大するほど、運用の透明性が重要になります。

結論

今回の相続税データは、課税割合の1割超という象徴的な数字とともに、課税価格・申告税額が高水準であることを示しました。ここから見える税制改正の視点は、単純な「控除を上げる/下げる」ではなく、次のような論点へ広がります。

  • 資産価格の変動が税負担に直結する中で、評価の納得性と予見可能性をどう確保するか
  • 納税資金問題に制度としてどう向き合うか
  • 生前贈与・事業承継など、資産移転のルールを政策目的と整合させて再設計できるか

相続税は、景気や相場、人口動態の影響が表面化しやすい税目です。公表データを起点に、どこが増え、どこが使われ、どこで摩擦が起きているかを押さえることが、今後の改正議論を読む近道になります。

参考

・国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」
・税のしるべ「相続税の課税割合が1割超に、地価上昇や株高などで」(2026年1月5日)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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