相続税は「どの財産が対象になるか」だけでなく、「どうやって計算するか」が難しいと感じられる部分です。相続財産を合計したうえで控除を差し引き、税率をかけて計算し、さらに税額控除を適用する…と、ステップが多いため混乱しやすいのです。
今回は国税庁のパンフレット(令和7年分用)をもとに、相続税の計算の流れと、活用できる控除制度について整理します。
1. 相続税計算の基本ステップ
相続税の計算は、大きく分けて次の流れで行います。
- 課税価格の合計額を算出する
- 基礎控除を差し引く
- 課税遺産総額を法定相続分で分け、各人の税額を計算
- 相続人ごとの取得額に基づいて修正
- 税額控除を適用して最終的な税額を確定
一見複雑に見えますが、順を追って考えれば整理できます。
2. 課税価格の合計額
まずは相続財産の価値を合計します。
ここには現金・不動産・有価証券のほか、「生命保険金の課税対象分」「死亡退職金の課税対象分」「3年以内の贈与財産」なども含まれます。
さらに、被相続人の借金や葬式費用は差し引けます。
こうして算出したものが「課税価格の合計額」です。
3. 基礎控除を引く
次に「基礎控除額」を差し引きます。
基礎控除額の計算式は次の通りです。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば、相続人が妻と子2人(計3人)の場合、基礎控除額は4,800万円。
課税価格が6,000万円なら、課税遺産総額は1,200万円となります。
4. 法定相続分で分けて税率をかける
課税遺産総額を、いったん「法定相続分」で分け、それぞれに税率をかけて税額を計算します。
相続税の速算表(令和7年分)
- ~1,000万円:10%
- ~3,000万円:15%(控除額50万円)
- ~5,000万円:20%(控除額200万円)
- ~1億円:30%(控除額700万円)
- ~2億円:40%(控除額1,700万円)
- ~3億円:45%(控除額2,700万円)
- ~6億円:50%(控除額4,200万円)
- 6億円超:55%(控除額7,200万円)
この速算表を使って、まず「相続税の総額」を出します。
5. 各相続人の実際の取得額に応じて按分
次に、その総額を「実際に取得した財産の割合」に応じて按分し、各相続人の相続税額を計算します。
ここで初めて「誰がどれだけ払うか」が決まります。
6. 税額控除の適用
相続税の計算では、いくつかの税額控除を利用できます。代表的なものを紹介します。
(1) 配偶者の税額軽減
配偶者が相続した財産については、1億6,000万円または法定相続分相当額まで非課税。
配偶者が全財産を相続した場合、ほとんどのケースで相続税はかかりません。
(2) 未成年者控除
20歳未満の相続人がいる場合、20歳に達するまでの年数×10万円を控除。
(3) 障害者控除
相続人が障害者の場合、85歳になるまでの年数×10万円(特別障害者は20万円)を控除。
(4) 相次相続控除
10年以内に2度相続が発生した場合、前回支払った相続税の一部が控除されます。
(5) 外国税額控除
国外財産に対して外国で相続税が課された場合、一定の金額が控除されます。
7. ケーススタディで理解する
ケース1:配偶者が全財産を相続
遺産総額:1億2,000万円
相続人:妻と子2人
この場合、妻が全額相続すれば「配偶者の税額軽減」により相続税はゼロになります。
ケース2:子が大きな財産を相続
遺産総額:1億2,000万円
相続人:妻と子2人(均等に分割)
基礎控除額:4,800万円
課税遺産総額:7,200万円
→ 法定相続分で分けると、妻3,600万円、子各1,800万円。
速算表で計算すると総額約1,020万円。
これを各人の実際の取得額に応じて按分します。
さらに配偶者軽減を適用すると、妻の税額はゼロ。子ども2人で相続税を負担します。
8. 控除を活用するために必要な準備
控除を適用するためには、申告書に必要事項を記載し、添付書類を整えることが不可欠です。
例えば配偶者軽減を受けるには、遺産分割協議書を整えて「配偶者がどの財産を取得するか」を明らかにしなければなりません。
控除は「申告しないと適用されない」ため、申告不要だと思い込まず、基礎控除を超えたら必ず申告しておくのが安全です。
まとめ
- 相続税は「課税価格の合計」から基礎控除を差し引き、課税遺産総額を算出する
- いったん法定相続分で分けて計算し、実際の取得割合で按分する
- 配偶者軽減、未成年者控除、障害者控除など、多くの税額控除がある
- 控除を適用するには「申告が必要」なので、期限内に正しく手続きを行うことが大切
次回は「相続財産の評価方法(不動産や株式はどうやって評価するのか)」について解説します。
参考資料
- 国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
