相続税は「申告」と「納付」がセットになっています。申告だけしても、納付をしなければ完了とはいえません。しかも、相続税は 現金一括納付が原則。相続財産が土地や建物ばかりで手元に現金が少ない場合、納付資金をどう確保するかが大きな課題となります。
今回は、国税庁パンフレット(令和7年分用)をもとに、相続税の納付方法について整理します。
1. 相続税は「金銭一括納付」が原則
相続税は、申告期限と同じく「相続開始から10か月以内」に金銭で納めるのが原則です。
納付の方法は次の通りです。
- 税務署の窓口で納付
- 金融機関で納付
- インターネットバンキングやクレジットカード払い(国税クレジットカードお支払サイト)
最近は ダイレクト納付(口座振替) や e-Taxによる電子納税 も広まっており、遠方からでも納税しやすくなっています。
2. 相続財産が現金不足の場合
相続財産の多くが不動産や株式といった「換金しにくい資産」の場合、10か月以内に現金で相続税を用意するのは難しいことがあります。
このような場合に備え、延納(分割払い) と 物納(財産で納める方法) が認められています。
3. 延納(分割払い)
延納とは、相続税を何年かに分けて納付できる制度です。
延納の条件
- 納税額が10万円を超えること
- 金銭で一括納付するのが困難であること
- 申告期限までに「延納申請書」と担保提供関係書類を提出すること
延納の年数
延納できる期間は、財産の種類によって異なります。
- 不動産などの場合:最長20年
- 株式などの場合:最長15年
- 現金など流動性の高い財産の場合:最長5年
延納の利子税
延納を選択すると「利子税」がかかります。利率は相続税の種類や延納期間によって異なりますが、年0.9%程度~6%前後の幅があります。
4. 物納(財産で納める)
物納は、どうしても現金が用意できない場合に、不動産や株式などの財産で相続税を納める方法です。
物納の条件
- 延納によっても納付が困難であること
- 納付に充てる財産が「物納に適した財産」であること
- 申告期限までに「物納申請書」を提出すること
物納に充てられる財産の順位
物納には優先順位があり、原則として次の順で充てます。
- 不動産(宅地や建物)
- 株式や公社債などの有価証券
- 動産(美術品などは限定的)
ただし、不動産でも貸家建付地や権利関係が複雑なものは認められにくく、実際には「換金できない土地を物納」というケースが多いです。
5. 延納と物納の比較
| 項目 | 延納 | 物納 |
|---|---|---|
| 内容 | 分割払い | 財産で納税 |
| 条件 | 一括納付困難・申請必要 | 延納でも困難・物納財産の適格性 |
| 期限 | 申告期限までに申請 | 申告期限までに申請 |
| 利用のしやすさ | 利子税はかかるが利用しやすい | 認められるハードルが高い |
一般的には、まず延納を検討し、それでも困難な場合に物納を申請する流れになります。
6. ケーススタディ
ケース1:延納で対応
遺産総額は1億円、そのうち自宅(土地・建物)が8,000万円、預金は2,000万円。
相続税額は2,000万円だが、預金では足りない。
→ 延納を申請し、10年にわたって分割払い。
ケース2:物納で対応
遺産総額は1億円、すべてが不動産。現金はほとんどなし。
→ 延納でも現金が用意できず、宅地を一部物納。
7. 納付資金の準備の工夫
相続税の納付資金を準備する方法として、次のような工夫もあります。
- 被相続人が生前に生命保険を契約し、相続税の納税資金を用意しておく
- 相続開始後、早めに不要な資産を売却して現金化する
- 相続人同士で協力し、負担を分散する
特に「生命保険を納税資金に活用する」方法はよく使われます。
まとめ
- 相続税の納付は「金銭一括」が原則、期限は申告期限と同じ10か月以内
- 一括納付が困難な場合は「延納(分割払い)」や「物納(財産で納める)」がある
- 延納は利用しやすいが利子税がかかる
- 物納は条件が厳しく、実際には限られたケースで利用
- 生前から納税資金をどう確保するか考えておくと安心
次回は「修正申告や災害時の特例」について解説します。
参考資料
- 国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
