相続税と社会保障――亡くなった後に社会へ還元するという考え方

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相続税は「財産にかかる税金」として語られることがほとんどですが、近年は別の視点からも注目されています。
それが、「社会保障との関係」です。

高齢化が進む中で、医療や介護にかかる公的支出は年々増えています。一方、家計の金融資産は2000兆円を超え、その多くを高齢世代が保有しています。
この状況をどう捉え、どのように制度設計に反映させるのか。相続税を「亡くなった後に社会へ還元する仕組み」として考える動きが、少しずつ広がっています。

高齢化と社会保障費の現実

日本の社会保障制度は、現役世代が支え、高齢世代が受け取る仕組みを基本としています。
しかし、少子高齢化が進み、現役世代の数が減る一方で、高齢者人口は増え続けています。

医療費や介護費は、高齢になるほど増加します。
多くの人が公的医療保険や介護保険の恩恵を受けており、これは日本社会の大きな成果でもあります。

その一方で、制度を支える財源の確保は、年々難しくなっています。
保険料負担を引き上げれば、現役世代の生活を圧迫します。税で賄おうとすれば、増税への反発が避けられません。

高齢世代に集中する金融資産

社会保障費が膨らむ一方で、家計の金融資産は高齢世代に集中しています。
60代以上が保有する金融資産は全体の6割を超え、預貯金や有価証券として蓄積されています。

これは、高度成長期から長く働き、堅実に貯蓄してきた結果でもあります。
個人の努力の成果であり、否定されるべきものではありません。

ただし、社会全体で見ると、「給付を受ける世代」と「資産を多く保有する世代」が重なっている構造でもあります。
この点をどう評価するかが、相続税と社会保障を結びつけて考える出発点になります。

政府税制調査会が示した視点

政府税制調査会は、相続税について「被相続人が生涯にわたり社会から受けた給付を清算するという考え方も重要だ」と指摘しています。
これは、相続税を単なる財産課税ではなく、社会保障との関係で捉え直そうとする視点です。

人は生涯を通じて、教育、医療、介護、インフラなど、さまざまな公的サービスの恩恵を受けます。
その負担は、現役時代の税や保険料だけで完全に賄われているわけではありません。

相続という人生の最終段階で、一定の形で社会に戻すことは、制度として一つの合理性を持ちます。

「亡くなった後に還元する」という発想

この考え方の特徴は、「生きている間の負担を増やしすぎない」点にあります。
高齢期に入ってから、医療費や介護費の自己負担を大きく引き上げることには、生活不安を招くリスクがあります。

一方、亡くなった後であれば、生活への直接的な影響はありません。
相続税という形で社会に還元してもらう方が、心理的な受け入れやすさが高いという見方もあります。

第一生命経済研究所などからは、金融資産の一部を、本人が受けた医療などに対応して公的制度へ戻す仕組みを提案する声も出ています。

相続税と保険料の違い

社会保障の財源としては、税と保険料の二つがあります。
保険料は、現役世代にとっては「毎月確実にかかる負担」であり、実感が強いものです。

これに対し、相続税は「人生で一度あるかどうか」の負担です。
対象も限定され、支払い能力がある層に集中します。

この違いを踏まえると、社会保障財源をすべて保険料で賄おうとするより、相続税を含めた多様な手段を組み合わせる方が、負担の偏りを抑えやすいとも言えます。

相続税を巡る反発と課題

もちろん、この考え方に対して反発がないわけではありません。
「すでに税や保険料を払ってきたのに、さらに相続税を課すのは二重取りではないか」という意見は根強くあります。

また、相続税が社会保障とどのように結びついているのかが、国民に十分に説明されているとは言えません。
税の使い道が見えにくいことが、不信感につながっている面もあります。

相続税を社会保障と結びつけて考えるのであれば、税収の使途や役割を、より分かりやすく示す努力が不可欠です。

世代間の公平という視点

相続税と社会保障を考える際、重要なのは世代間の公平です。
現役世代は、保険料と税の双方を負担しながら、将来の給付に不安を抱えています。

一方、高齢世代は、資産を多く保有しつつ、医療や介護の給付を受けています。
このバランスをどう取るかは、避けて通れない問題です。

相続税は、この世代間調整の一つの手段として位置づけることができます。

結論

相続税を「亡くなった後に社会へ還元する仕組み」として捉える考え方は、少子高齢化が進む日本において現実的な選択肢の一つです。
生きている間の負担を抑えつつ、支払い能力のある層から社会保障財源を確保するという点で、一定の合理性があります。

もちろん、課題や反発もありますが、相続税を単なる「重い税金」として避けるのではなく、社会全体を支える制度の一部として理解することが、これからますます重要になります。
大相続時代とは、個人の問題であると同時に、社会全体の課題でもあるのです。

参考

・日本経済新聞「大相続時代、広がる課税の裾野」(2025年12月16日朝刊)
・日本経済新聞「節税巡りいたちごっこ」(2025年12月16日朝刊)
・政府税制調査会 答申
・厚生労働省 社会保障費統計


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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