近年、国民生活センターへの相談が急増しているテーマのひとつが「デジタル遺品」です。
ネット銀行や証券口座、仮想通貨、電子マネー、ポイント、サブスクサービス……。これらは紙の通知が来ないため、相続のときに家族が存在すら気づかないケースが増えています。
この記事では、デジタル財産を相続の観点から整理し、元気なうちに備えるためのポイントをご紹介します。
デジタル遺品が相続を難しくする理由
MUFG相続研究所が2021年に実施した調査によれば、70代以上でも半数以上がネット完結型の銀行・証券口座を保有していました。高齢者のオンライン取引利用は想像以上に広がっています。
しかし、ネット口座や暗号資産、FXなどは郵送での記録が届かないため、遺族が存在を知るのは極めて困難です。
また、IDやパスワードが分からなければログインできず、最近は生体認証(指紋・顔認証)も普及しているため、本人以外がアクセスするハードルはさらに高まっています。
解約や名義変更の手続きも、従来型の銀行や証券会社とは勝手が違い、慣れていない遺族には大きな負担となります。
デジタル財産の相続税評価と注意点
相続財産に含まれるのは、株式・投資信託・暗号資産・電子マネーなど。
評価額は時価で計算されますが、問題となるのは価格変動リスクです。
税理士の内藤克さんは「亡くなってから口座が凍結されるまでにはタイムラグがある。変動率の大きい金融商品は早めの手続きが望ましい」と指摘しています。
特に仮想通貨やFXなどは日々の値動きが激しく、相続税評価のタイミングによっては思わぬ納税負担が生じることもあるのです。
親の「ポイ活」にも相続の落とし穴
意外と見落とされがちなのがポイントやマイルです。
- 楽天ポイントやVポイント → 名義人の死亡で消滅
- ANAマイレージ、JALマイレージ → 相続可能
- PayPay残高などの電子マネー → 相続財産として扱われる
普段は数百円~数千円の小さなポイントでも、長年の積み重ねで数万ポイント規模になることも珍しくありません。知らずに失効させてしまえば大きな損失です。
サブスク契約の「見えない負担」
さらに注意すべきは、クレジットカードから引き落とされている定期課金(サブスクリプション)サービス。
動画配信や音楽サービス、クラウドストレージなど、実際には利用していない契約が続いているケースも多いものです。
銀行口座は相続発生時に凍結されますが、クレジットカードは停止されるまで自動引き落としが続きます。
遺族がサービスごとに解約を進めるのは負担が大きいため、生前に整理してもらうのが最も効果的な対策です。
デジタル終活でトラブル回避を
国民生活センターも「デジタル終活」の必要性を呼びかけています。
具体的な備え方としては次のような方法が考えられます。
- 財産リストの作成
ネット口座、暗号資産、電子マネー、ポイント、サブスクなどを一覧化する。 - ID・パスワード管理の共有
信頼できる家族に伝える、またはパスワード管理サービスを活用する。 - 不要なサービスは整理
サブスクや使っていない口座は、元気なうちに解約する。 - 相続税の影響を意識
価格変動の大きい資産は早めに対応する。
まとめ
相続の現場では、目に見える現金や不動産以上に「デジタル財産」がトラブルの火種になりつつあります。
「そんなにネットを使っていないから大丈夫」と思っている親世代でも、実はネット銀行やポイントを日常的に利用しているケースは少なくありません。
親が元気なうちに話し合い、必要な情報を整理しておくことが、家族の負担を大きく減らします。
相続対策というと遺言や不動産の分け方に注目が集まりがちですが、これからの時代は**「デジタル終活」も必須の相続準備**だといえるでしょう。
👉 参考:
「相続発生時に苦戦必至のデジタル財産 親の『ポイ活』にも注意」日本電子版(2025年8月17日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
