親から相続した土地が売れない、管理が大変、遠方で維持できない──。こうした「負動産」の悩みが広がる中で、国が相続土地を引き取る「相続土地国庫帰属制度」を利用する人が急増しています。制度開始から2年半で引き取り件数は2,000件を超え、利用ニーズの強さがうかがえます。
この記事では、制度の仕組みや手続きの流れ、利用のポイント、実際の費用などを一般の方にもわかりやすく解説します。相続対策を考えるうえで、早めの準備が大切になる制度です。
1 利用が急増する背景
相続した実家が老朽化していたり、地方で買い手がつかなかったりするケースが増えています。
例えば、築50年の実家が10年以上空き家になり、固定資産税や草刈り費だけが毎年かかり続ける──こうした悩みを抱え、子や孫に負担を残したくないと制度の利用を決断する例が目立っています。
制度を利用して土地を国に引き渡すためには、建物を解体するなどの準備が必要な場合があります。実家の解体費や負担金などを合わせると200万円以上になるケースもありますが、長期の管理費や近隣トラブルのリスクを考えて「ここで区切りをつける」という選択をする人が増えています。
2 制度の利用件数と審査の現状
相続土地国庫帰属制度は2023年4月にスタートしました。
2025年9月末時点での状況は次のとおりです。
- 申請総数:4,374件
- 審査済み:2,179件(うち9割強が承認)
- 帰属決定件数:2,039件
- 最も多いのは宅地(36%)、次いで農用地
審査には約8カ月が目安とされており、2025年度も毎月120~150件の申請が続いています。
3 手続きの流れ(事前相談から帰属まで)
(1)事前相談
まずは法務局での事前相談から始めます。
対面・電話・オンラインのいずれも可能で、予約制で無料です。相談では、登記簿謄本や写真などを用意し、土地が引き取り条件に合致するか、注意すべき点は何かといった助言を受けます。
都市部に住む人が地方の実家の土地を相談するケースが多いのが特徴です。
(2)申請
引き取りを希望する場合は、管轄法務局に申請書・土地写真・図面等を提出します。
申請手数料は土地1筆につき1万4,000円です。
(3)審査(書面審査→現地調査)
申請後、
- まず書面審査
- その後、原則として現地調査
が実施され、承認か不承認が決定されます。
(4)負担金の納付
承認を受けたら30日以内に負担金を払います。
基本額は次のとおりです。
- 宅地・農用地:1筆あたり20万円
負担金納付後、土地の所有権が国へ移転します。
4 引き取り条件と注意点
制度は「どんな土地でも引き取ってくれる」わけではありません。
主な条件は次のとおりです。
- 建物が残っていると不可(解体が必要)
- 境界紛争や隣地との争いがある場合は不可
- 大きな崖や補強工事が必要な地形は不可
- 樹木の伐採など、管理・処分に過大な費用がかかると不承認
事前相談で指摘される内容は、建物解体や樹木伐採など対応可能なものが多いですが、崖地など構造的な問題は対処が難しいことがあります。
建物解体費の目安
木造建物は
- 1坪あたり約5万円が目安
- 例:150㎡(約45坪)で解体費は約220〜230万円
こうした支出に備えて親が生命保険(300万円程度)に加入しておくという事前対策も有効とされています。
5 国庫帰属を使わずに手放す選択肢
宅地の場合は、制度を利用しなくても処分できるケースがあります。
例えば、無償で隣地所有者が引き取ってくれることは意外に多く、
- 増築用の敷地
- 駐車場
- 物置スペース
として活用されることがあります。
無償譲渡でも建物の解体費は必要ですが、制度の審査手数料や負担金が不要になるメリットがあります。
結論
相続土地国庫帰属制度は、増え続ける空き家・不要土地の課題に対する現実的な選択肢として利用が広がっています。しかし、すべての土地が対象になるわけではなく、解体費や手数料を含めると数百万円の出費が必要になるケースもあります。
大切なのは、
- 相続発生前から親子で情報共有すること
- 法務局の事前相談を早めに活用すること
- 制度以外の処分方法(無償譲渡など)も検討すること
相続発生後に慌てるのではなく、元気なうちから準備しておくことで、子や孫に負担を残さない「円滑な相続」が実現できます。
出典
・日本経済新聞「相続土地、国の引き取り急増」(2025年11月記事)
・法務省「相続土地国庫帰属制度」関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
