相続される財産はどう変わったのか――土地から金融資産へ

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相続税の話になると、「土地をたくさん持っている家が払うもの」というイメージを持つ方は今も多いかもしれません。
確かに、かつての相続では土地が中心でした。しかし現在、相続される財産の中身は大きく変わっています。現預金や有価証券など、金融資産の存在感が急速に高まっているのです。

この変化は、相続税の負担の広がりとも深く関係しています。今回は、相続財産の構成がどのように変わり、それが相続税にどのような影響を与えているのかを整理します。

かつては「土地の相続」が中心だった

1990年代初頭、日本の相続財産の大半は土地でした。
バブル崩壊直後の1993年ごろには、相続財産全体の約7割を土地が占め、金融資産は2割にも満たなかったとされています。

当時は、土地価格が高く、資産形成といえば不動産が中心でした。現預金や株式よりも、「土地を持っているかどうか」が資産の多寡を左右していた時代です。
相続税の対策も、不動産をどう評価するか、どう分けるかが最大のテーマでした。

金融資産が相続財産の主役になった理由

それから30年余りがたち、相続財産の構成は大きく変わりました。
現在では、現預金と有価証券を合わせた金融資産が、相続財産全体の5割を超えています。土地は依然として重要な資産ですが、「中心」ではなくなりつつあります。

この背景には、いくつかの要因があります。
一つは、長引く低金利の中で、不動産以外の資産運用が広がったことです。投資信託や株式を通じて、少しずつ金融資産を積み上げてきた世帯が増えました。

もう一つは、高齢世代に金融資産が集中していることです。家計の金融資産は2000兆円を超え、その6割以上を60代以上が保有しているとされています。
老後に備えて蓄えた現預金や運用資産が、そのまま相続財産になるケースが増えています。

金融資産は「評価がそのまま課税される」

相続税の観点から見ると、金融資産には特徴があります。
それは、評価が明確で、そのまま課税対象になりやすいという点です。

現預金は額面通り、株式や投資信託も相続開始時点の時価で評価されます。
不動産のように評価方法の違いによる差が生じにくく、相続税の計算にほぼ直結します。

このため、金融資産の比率が高いほど、「分かりやすく、逃げ場のない」課税対象になりやすいのが実情です。
知らないうちに資産が増え、気づいたときには相続税の対象になっていた、というケースも珍しくありません。

「分けやすい資産」が税負担を重くする逆説

金融資産には、もう一つ重要な特徴があります。それは、分けやすいという点です。
預貯金や有価証券は、金額で簡単に分割できます。そのため、相続人間で公平に分けやすい資産といえます。

一方で、分けやすいということは、相続税の計算でもそのまま割り当てられやすいということです。
不動産のように共有にする、評価を工夫する、といった余地が少なく、結果として1人あたりの課税額が明確になります。

「公平に分けられる資産ほど、税負担がはっきり見える」という点は、金融資産中心の相続が増えた現代ならではの特徴です。

自宅不動産と金融資産の組み合わせ

多くの家庭では、自宅不動産と金融資産を組み合わせた相続になります。
都市部では、自宅の評価額が高くなりやすく、そこに預貯金や投資信託が加わることで、基礎控除を超えてしまうケースが増えています。

特別に投資に積極的でなくても、長年の貯蓄と年金収入の積み重ねによって、金融資産は意外と膨らみがちです。
「自宅はあるが現金はそれほど多くない」と思っていても、合算すると相続税の対象になることがあります。

金融資産中心の相続が増やす申告リスク

金融資産の増加は、相続税の申告リスクとも関係しています。
現預金や有価証券は把握しやすい一方で、申告漏れや評価ミスが起きると、修正が難しい資産でもあります。

国税庁の調査では、相続税の調査件数や申告漏れ額は増加傾向にあります。
金融資産が多い相続では、通帳の整理や証券口座の確認が不十分なまま申告してしまい、後から指摘を受けるケースも見られます。

「資産が多い」の基準は変わった

ここで改めて考えたいのは、「資産が多い」とはどういう状態かという点です。
かつては土地を大量に所有していることが、富裕層の象徴でした。しかし今は、堅実に貯蓄し、長く働いてきた結果として、金融資産が積み上がっている世帯が増えています。

その結果、本人にとっては「普通の生活」をしてきただけでも、相続の場面では「資産が多い側」に分類されることがあります。
相続税の世界では、感覚的な豊かさと、評価額としての資産は必ずしも一致しません。

結論

相続される財産は、土地中心から金融資産中心へと大きく姿を変えました。
この変化により、相続税はより多くの人にとって身近な問題になっています。

重要なのは、金融資産が増えたこと自体が悪いわけではないという点です。
ただし、その評価や課税の仕組みを知らないままでいると、相続の場面で思わぬ負担や混乱を招くことがあります。

大相続時代を迎えた今、自分の資産の中身を一度整理し、「何が相続されるのか」を把握しておくことが、これまで以上に重要になっています。

参考

・日本経済新聞「大相続時代、広がる課税の裾野」(2025年12月16日朝刊)
・国税庁「相続税の課税状況に関する統計」
・日本銀行「資金循環統計」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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