生成AIと税務判断 ― 税理士業務はどう変わるか――「計算するAI」から「考えるAI」へ

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■ 序章:AIが「税理士の仕事」を変え始めている

ここ数年で、税務の世界は急速にデジタル化しました。
電子申告の普及、電子帳簿保存法、インボイス制度、そしてAI。
その中でも、今もっとも注目されているのが生成AI(Generative AI)です。

かつてAIは「計算を速くするツール」でした。
しかし、今やAIは文章を理解し、過去データを分析し、
「判断の根拠を示す」段階にまで進化しています。

それはつまり、AIが税務の現場で人の判断を支える時代が来たということです。


■ 1. 税務業務におけるAIの3つの進化段階

時期主な技術役割
第1段階(~2020)OCR・自動仕訳事務作業の自動化領収書読み取り・会計仕訳
第2段階(2020~2024)クラウドAI連携データ分析・異常検知経費の不正検知・残高照合
第3段階(2025~)生成AI・自然言語処理判断補助・説明生成税務リスク分析・顧客説明文書作成

これまでAIは「仕訳を自動化する」だけでしたが、
今では税務調査対応書類や顧客説明レポートを生成できる段階に到達しています。


■ 2. 生成AIが得意とする3つの領域

① 税務文書の要約・下書き生成

国税庁の通達やFAQ、判例などの文章をAIが読み込み、
「何を根拠に判断できるのか」を要約して提示。
たとえば、「小規模宅地の特例」や「2割特例」などの制度について、
AIが最新通達を整理し、実務者が即座に判断できる資料を作成することが可能になっています。


② リスク分析とケース比較

AIは大量の決算書・申告データを学習し、
「この数値構成は過去の追徴事例に近い」など、リスクシグナルを提示します。
これにより、税理士は調査リスクを事前に想定し、
修正申告や顧問先指導を行うことが容易になります。


③ 顧客説明・文章化支援

AIは専門用語をわかりやすく言い換えることが得意です。
「なぜこういう税務判断になるのか」を、
一般の顧客に向けて説明する文章(レポート・note記事・契約時説明文)を自動生成。
税理士の“伝える力”を補う役割が急速に広がっています。


■ 3. 「AIが税理士に取って代わる」は本当か?

結論から言えば、AIが税理士を完全に代替することはありません。
理由は明確です。

税務の本質は「数字」ではなく、
“状況を踏まえた判断”と“責任ある説明”だからです。

AIは膨大な法令データを分析できますが、
たとえば次のような判断はまだ人にしかできません。

  • 「この会社の経営実態に照らして、どの制度を選ぶべきか」
  • 「税務リスクをどこまで許容するか」
  • 「顧問先の意向をどう反映するか」

AIが“答え”を出す時代ではなく、
AIが“考える材料を提示し、人が判断する時代”へと移行しているのです。


■ 4. 税理士・経理担当者がAI時代に求められるスキル

生成AIが普及するほど、
税理士や経理担当者の役割は「AIを使いこなす側」へとシフトします。
今後、特に重要になるのが次の3つのスキルです。

① AIリテラシー(プロンプトスキル)

AIに何を、どのように聞くか。
曖昧な質問では誤情報を生みます。
「制度根拠を含めて」「国税庁資料を前提に」といった指示を出せる力が鍵になります。

② リスク解釈力

AIが出した結論をうのみにせず、
「どの法令に基づくのか」「反証となる通達はないか」を検証する力。
つまり、AIの答えを“監査”できるスキルです。

③ 説明力・文章化力

AIが生成した文章を顧客・税務署・金融機関向けに調整する力。
専門用語をかみ砕き、人間の言葉で説明する能力がさらに重視されます。


■ 5. AI導入の実際 ― すでに進む「AI税務アシスタント」

2025年現在、すでに以下のようなAI活用事例が広がっています。

  • freee・弥生・マネーフォワードなどが提供する「AI仕訳提案機能」
  • ChatGPT系AIによる「税務質問自動応答」
  • 企業内のAIチャットボットによる「経費・源泉処理マニュアルの即時検索」
  • 税理士事務所での「申告書レビューAI(誤記・数字不整合の自動検知)」

これらはすべて、“人の手を補完するAI”です。
税理士はAIの出力をチェックし、最終判断と説明を担う専門職としての価値を高めています。


■ 6. 「AIと税理士倫理」 ― 判断の責任は誰にあるのか

AIを使ううえで忘れてはならないのが、倫理と責任の所在です。

日本税理士会連合会が示す「税理士職業倫理指針」では、
判断を外部に委ねてはならないと明記されています。
AIが提示する案や推定はあくまで“補助的情報”であり、
最終的な判断と署名責任は税理士本人が負うことになります。

AIに「判断」を丸投げすれば、
万が一の税務調査や訴訟で「職業判断義務違反」とみなされるおそれもあります。
AIは“便利な助手”ではあっても、“責任の代理人”ではないのです。


■ 結び:AIは「競争相手」ではなく「共働者」

生成AIは、税理士の仕事を奪うのではなく、仕事の質を変えるツールです。
手間のかかる入力・整理・文書作成はAIに任せ、
人はより本質的な「判断・戦略・対話」に集中できる。

AIと人が補い合うことで、
税務の世界はより透明で、説明責任のある方向へ進んでいくでしょう。

“AIに任せず、AIと組む”
それが、これからの税理士に求められる新しいプロフェッショナリズムです。


出典:国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション構想2025」/日本税理士会連合会「税理士職業倫理指針」/日本経済新聞(2025年10月21日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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