家計の支払い手段に大きな転換点が訪れました。2025年、クレジットカード決済の比率が初めて現金を上回ったと報じられています。インフレ下でのポイント還元の活用、ネット通販の拡大、そして決済端末の普及が背景にあります。
本稿では、キャッシュレス決済の現状を整理するとともに、家計管理・事業者対応・税務実務への影響という観点から考察します。
カード決済が現金を逆転した意味
総務省の家計調査によれば、2人以上世帯のモノ・サービス支出における支払手段の割合は、2020年に現金43.1%、カード26.7%でした。これが2025年には現金35.3%、カード36.3%となり、初めて逆転しました。
一方で、コード決済や交通系ICなどの電子マネーは約6%前後で横ばい、口座振込も大きな変化はありません。主役はあくまでクレジットカードです。
背景としては、次の3点が挙げられます。
- ネット通販の利用拡大
- 実店舗での決済端末の整備
- 物価上昇局面でのポイント還元の重視
ネット通販は10年前と比べて利用率が約2倍に拡大し、オンライン決済が日常化しました。さらに物価上昇が続く中で、ポイント還元は「実質的な値引き」として消費行動を後押ししています。
それでも残る「現金依存分野」
品目別にみると、食料や保健医療では依然として現金比率が5~6割と高い状況です。
ここにはいくつかの構造的要因があります。
- 小規模店舗の端末未導入
- 医療機関の決済インフラ整備の遅れ
- 高齢層の現金志向
- 手数料負担に対する事業者の抵抗感
つまり、日本全体でキャッシュレスは進んでいるものの、業種・世代・地域によって温度差があるということです。
家計管理の変化と可視化の進展
カード決済の拡大は、家計管理の方法も変えています。
1. 支出の自動記録化
カード利用により明細が自動的にデータ化され、家計簿アプリとの連携が容易になります。支出構造の把握が格段に進みます。
2. ポイントの「実質利回り」
還元率1%は一見小さく見えますが、年間300万円利用すれば3万円相当です。インフレ局面では、実質負担軽減効果が心理面でも大きくなります。
3. 使い過ぎリスク
一方で、可視化が進む反面、即時に現金が減らないため支出感覚が鈍るリスクもあります。リボ払いや分割払いの利用増加は家計の健全性を損なう可能性があります。
キャッシュレスは「便利」ですが、「家計管理能力」がより問われる時代に入ったといえます。
事業者側のメリットと課題
キャッシュレス化は事業者にも大きな影響を与えます。
業務効率化
現金管理(釣銭準備、レジ締め、売上金回収など)の負担が大幅に軽減されます。ある大規模イベントでは、決済関連作業時間が通常の約10分の1になったとされています。
データ活用
購買履歴の分析が可能となり、マーケティングや在庫管理の高度化につながります。
手数料問題
一方で、決済手数料は中小事業者にとって依然として重い負担です。特に利益率の低い業種では慎重な判断が必要です。
税務実務への影響
キャッシュレス化は税務にも少なからず影響を及ぼします。
1. 証憑の電子化
カード明細や電子レシートは、電子帳簿保存法対応の観点からも重要です。データ保存体制の整備が求められます。
2. 売上の透明性向上
現金売上比率の低下は、売上計上の透明性を高めます。不正リスクの低減にもつながります。
3. 消費税実務
決済手段が変わっても、課税関係自体は変わりません。しかし、売上管理・締日管理・入金タイミングの把握はよりシステム依存になります。システム理解なしに申告精度は維持できません。
特に中小事業者では、POS・決済システム・会計ソフトの連携設計が今後の重要課題になります。
国の目標と今後の展望
経済産業省は2030年までにキャッシュレス決済比率65%を目標に掲げています。現状はまだ道半ばですが、方向性は明確です。
ただし、日本は高齢化が進む社会です。完全な現金廃止は現実的ではありません。デジタル弱者への支援と公平性の確保は不可欠です。
キャッシュレスは単なる決済手段の変化ではなく、家計・企業経営・税務行政・社会インフラを横断する構造変化です。
結論
クレジットカード決済が現金を上回ったという事実は、日本の消費構造が本格的に転換期に入ったことを示しています。
家計にとっては可視化と効率化のチャンスであり、同時に自己管理力が問われる時代です。
企業にとっては業務効率化とデータ活用の好機であり、同時にコスト構造の見直しが必要です。
税務の現場では、電子化対応力が実務品質を左右します。
現金からデータへ。
決済の変化は、経済の基盤そのものを静かに変えつつあります。
参考
日本経済新聞「カード決済、初の現金超え ネット通販・ポイント還元が後押し」2026年2月20日朝刊
総務省 家計調査
総務省 家計消費状況調査
経済産業省 キャッシュレス・ビジョン関連資料

