これまで「為替差損益」「金利」「投資有価証券評価」と、会計に出てくるキーワードを見てきました。シリーズの最後は「減損(げんそん)会計」です。言葉だけ聞くと難しそうですが、簡単にいえば「企業が持っている資産の価値を見直して、下がった分を損失として処理すること」です。
減損とは?
企業は工場や店舗、機械やビルなど、さまざまな資産を持っています。本来は長期間にわたって利益を生み出してくれるはずのものです。
ところが、
- 業績が悪化してもう利益を出せそうにない
- 市場環境が変わって需要がなくなった
- 新しい技術が登場して古い設備が使えなくなった
こういう場合には「その資産はもう当初の価値ほどの働きをしない」と判断されます。その差額を「減損損失」として損益計算書に計上するのです。
身近なイメージでいうと?
イメージしやすいのは、マイホームやクルマです。
- 3,000万円で買った家が、周辺環境の変化や老朽化で2,000万円の価値しかなくなった
- 300万円で買ったクルマが、新モデル登場で中古市場では100万円の値しかつかない
こうした「値下がり分を会計上の損として処理する」のが減損です。
決算でどう表れる?
減損が発生すると、損益計算書に「減損損失」としてまとめて計上されます。これにより、その年度の利益が一気に減ることがあります。
実際に、国内外の大企業が数千億円単位の減損損失を計上して「赤字転落」と報じられることも少なくありません。
どんなときに起こりやすい?
- 大型投資が期待外れに終わったとき
→ 海外進出やM&A(企業買収)が想定どおり利益を生まなかったケース。 - 市場環境の変化
→ インターネットの普及でCDショップが衰退、EVの普及でガソリン車関連設備の価値が下がるなど。 - 不動産や資源価格の下落
→ 地価や石油・鉱物などの価格変動で資産の価値が急落するケース。
投資家が注目すべきポイント
減損は一度に巨額の損失が出ることが多く、ニュースで大きく取り上げられます。ただし、その意味を正しく理解することが大切です。
- 減損は「将来の利益を生まなくなった分」を前倒しで損失にしているだけ
- その年の業績が悪化して見えても、キャッシュが実際に出ていくわけではない
- 本業が好調なら、翌期以降はまた黒字に戻ることもある
つまり「減損=企業がダメになった」と短絡的に考えるのは危険です。むしろ「経営判断の見直し」や「環境変化への適応」として前向きに評価される場合もあるのです。
まとめ:数字の奥にある「資産の現実」
減損会計は、企業が持つ資産の価値を現実に合わせるための仕組みです。
「当初の期待どおりには働かなくなった」資産をそのまま帳簿に載せ続けては、財務諸表が実態とズレてしまいます。
投資家や読者としては、減損のニュースを見たら「なぜその資産の価値が下がったのか?」を考えることが重要です。それは経営の失敗なのか、外部環境の変化なのか、将来への戦略転換なのか。そこに企業の姿が映し出されているのです。
📌参考:日本経済新聞 2025年9月18日 朝刊
「会計フォローアップ」
シリーズを終えて
4回にわたって「会計フォローアップ」として、
- 為替差損益
- 金利
- 投資有価証券の評価
- 減損
を解説してきました。これらは一見専門的に思えますが、実は日常の「両替」「利息」「株価」「中古価格」といった感覚に置き換えると理解しやすいものです。
決算発表のニュースを読むとき、「この数字はどんな背景で動いているのだろう?」と考えるきっかけになれば幸いです。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

