高齢化の進展により、判断能力の低下に備えた財産管理の設計は、多くの家庭にとって現実的な課題となっています。
これまでの法定後見制度は「一度始めると原則やめられない」という構造が、利用をためらわせる要因になっていました。
今回示された制度見直しの方向性は、この前提を大きく変える可能性があります。本稿では、改正のポイントと家族信託との使い分けの視点から整理します。
終身原則という制度の重さ
現行の法定後見制度は、原則として終身利用です。
判断能力が回復しない限り、本人が亡くなるまで続きます。
家庭裁判所が選任した後見人は、財産管理や契約行為の代理、取消権の行使などを担います。専門職が就任する場合も多く、財産額に応じた報酬が継続的に発生します。
制度の趣旨は本人保護にありますが、
・相続の遺産分割協議だけ必要
・自宅売却手続きだけ支援がほしい
といった一時的ニーズには対応しづらい設計でした。この制度の重さが、利用をためらわせる背景にありました。
改正の方向性:スポット利用型へ
法制審議会の要綱案では、制度の柔軟化が示されています。
主な方向性は次のとおりです。
・必要な事項ごとに家庭裁判所が関与する仕組みへ
・必要性がなくなれば終了可能とする
・後見人の交代をしやすくする規定の整備
・任意後見との併用を可能にする
つまり、「常時包括管理」から「必要時限定支援」への転換です。
例えば、軽度の認知症の配偶者が遺産分割協議のために制度を利用し、協議終了後に終了する、といった活用が想定されます。
これは実務上、極めて大きな変化です。
家族信託との使い分け
制度の柔軟化により、家族信託との関係がより重要になります。
家族信託(民事信託)は契約に基づく制度で、裁判所の関与はありません。信託契約で定めた範囲内で、柔軟な財産管理や運用が可能です。
・不動産の売却や建替え
・株式の売買
・新規借入れによる活用
なども設計次第で対応できます。
一方で、本人が相続人となる遺産分割協議の代理はできません。あくまで財産管理制度です。
法定後見は法律行為の代理や取消権を持つため、遺産分割協議や紛争案件への対応には適しています。
改正によりスポット利用が可能になれば、
通常は家族信託で管理
特殊な法律行為のみ法定後見
という併用設計が現実的になります。
後見人交代規定の見直し
今回の改正では、後見人の解任要件も見直される方向です。
従来は、横領などの不正や著しい不行跡といった重大事由がなければ解任は困難でした。
要綱案では、「本人の利益のため特に必要があるとき」という規定を新設し、解任をしやすくする方向が示されています。
これは、制度の硬直性を和らげ、本人保護の質を高めるための措置といえます。
制度は単独で設計しない
今後重要になるのは、単一制度で完結させない設計思考です。
・任意後見
・法定後見
・家族信託
・遺言
・生前贈与
これらを組み合わせることで、判断能力の変化や家族状況の変化に対応できます。
特に不動産や株式を保有する世帯では、資産活用と承継設計を一体で考える必要があります。
成年後見制度の改正は、その設計自由度を高める方向に進んでいるといえます。
結論
法定後見制度は、「最後の手段」から「必要なときに利用する選択肢」へと位置づけが変わろうとしています。
家族信託は柔軟な財産管理ツールとして引き続き有効です。
重要なのは制度そのものではなく、将来の局面ごとにどの制度をどう組み合わせるかという設計です。
高齢化社会において、判断能力の低下は例外ではありません。制度改正を契機に、資産管理と承継の設計を見直すことが求められています。
参考
日本経済新聞 2026年2月28日朝刊
「法定後見、使いやすく」
「不動産・株式の柔軟活用も」

