ROEを“3つの視点”で分解してみよう
前回の記事で、ROE(自己資本利益率)は
「自己資本に対して、どれだけの利益を上げたか」
を示す指標だと紹介しました。
このROEは、1つの数字で企業の総合力を表す指標ですが、
その中身を分解すると、
「どこで稼ぎ、どこに課題があるのか」が一気に見えてきます。
この分析方法を、会計の世界では
💡 「デュポン分析(DuPont Analysis)」
と呼びます。
ROEの3分解式とは?
ROEは、次のように3つの要素に分けて考えることができます。
ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
図で表すと、こんなイメージです👇
ROE(自己資本利益率)
│
├─① 売上高当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高
│ →「どれだけ効率よく利益を出しているか」
│
├─② 総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産
│ →「資産をどれだけ回して売上を上げているか」
│
└─③ 財務レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本
→「自己資本をどれだけテコにして資産を増やしているか」
① 売上高当期純利益率:利益体質の“健康診断”
まず見るべきは「売上高当期純利益率」。
これは売上のうち、最終的にどれだけ利益が残っているかを示します。
たとえば、売上1,000億円・純利益50億円なら、利益率は5%。
ここが高い企業ほど、「コストを管理できる・値決め力がある」会社です。
チェックポイント
- 営業利益率と比較し、金融収支や特損の影響を把握
- 競合他社との利益率比較で「稼ぐ力」の差を確認
- 一時的な特益ではなく、安定的な利益構造かを見る
② 総資産回転率:資産の使い方を見る
次に見るのが「総資産回転率」。
これは企業が持っている資産をどれだけ効率的に使って売上を上げているかを示す指標です。
総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産
この数値が高い企業は、設備や在庫を効率よく回していることを意味します。
逆に低い場合は、「資産を遊ばせている」可能性があります。
チェックポイント
- 不動産・有価証券などの非事業資産が膨らんでいないか
- 売上の変化に対して総資産が重たくなっていないか
- 遊休資産・政策保有株をどう扱っているか
👉 ここはまさに東証の「PBR改革」とつながる部分。
企業が眠っていた資産をどう動かすかが、
資産回転率の改善=ROE上昇のカギになるのです。
③ 財務レバレッジ:資本構成の“バランス感覚”
最後に見るのが「財務レバレッジ」。
これは自己資本と他人資本(借入)のバランスを表す指標です。
財務レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本
自己資本比率が高い企業は安定していますが、
同時に「リスクを取らずに利益を出す力が弱い」とも言えます。
逆に、レバレッジを効かせすぎると、景気変動で財務が急激に悪化するリスクも。
チェックポイント
- 自己資本比率と借入金比率のバランス
- 業種特性に合った資本構成か
- 財務安定性と資本効率の“ちょうどよい落とし所”を探る
デュポン分析で「どこを直せばROEが上がるか」がわかる
この3つを分けて考えると、
ROEが低い企業でも「何が原因なのか」が一目で分かります。
| ケース | 原因 | 改善策の方向性 |
|---|---|---|
| 売上高利益率が低い | コスト構造が重い・値決め力不足 | 価格戦略・原価管理の見直し |
| 総資産回転率が低い | 遊休資産・過剰在庫・政策保有株 | 資産売却・事業整理・キャッシュ化 |
| 財務レバレッジが低い | 自己資本過剰・リスク回避 | 株主還元・新規投資・資本最適化 |
つまりROEを「ただの数字」として眺めるのではなく、
“3つの歯車のどこが鈍っているのか”を探すのが分析の本質です。
実際の企業開示から読み取るコツ
東証のPBR改革以降、多くの企業が中期経営計画で
「ROE○%を目指す」と掲げるようになりました。
ここで注目すべきは、その“道筋”です。
「ROEを上げる」と言っても、
・利益率を上げるのか?
・資産を軽くするのか?
・レバレッジをかけるのか?
――この3つのどこに重点を置くかで、企業のリスクと方向性はまったく変わります。
投資家だけでなく、経理・税理士・FPとしても、
「ROE目標の中身」を読み解く力が求められる時代です。
会計は“過去の記録”ではなく“未来の戦略”を映す
ROEやPBRといった指標は、
単なる株価評価のための道具ではありません。
それは、経営がどのように資本を使い、どんな未来を描こうとしているかを
数字で可視化する“経営言語”です。
税理士・会計人にとって、
決算書は「過去を締めるもの」ではなく、
「未来を読み解く資料」でもあるのです。
ROEの3分解をマスターすれば、
あなたの決算書の見方が、きっと一段深まります。
出典
出典:2025年10月11日 日本経済新聞朝刊
「株式投資、『変革』銘柄の選び方」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
