老後の医療や介護に備える手段として、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが民間保険です。
社長や個人事業主の場合、とくに「会社員よりも保障が薄いのではないか」という不安から、保険に厚く加入しているケースも少なくありません。
一方で、老後資金としては、役員退職金、新NISA、iDeCo、公的年金といった制度も存在します。
本稿では、民間保険を老後対策の中心に据えるべきなのか、それとも資産形成と役割分担すべきなのかという視点から、民間保険の「必要な範囲」を整理します。
民間保険が担う役割
民間保険の本来の役割は、「発生確率は低いが、発生すると家計に大きな影響を与えるリスク」に備えることです。
典型例は、現役時代の死亡保障や、就労不能時の収入減少リスクです。
老後においても、医療費や介護費用というリスクは存在しますが、その性質は現役時代とは異なります。
老後の支出は長期化しやすく、保険金で一度に解決できるものばかりではありません。
公的制度との重なりを確認する
医療については、公的医療保険と高額療養費制度により、自己負担額には上限があります。
介護についても、公的介護保険が基本部分をカバーします。
このため、民間保険は「公的制度で足りない部分」を補う位置づけになります。
公的制度の内容を理解しないまま保険に加入すると、必要以上の保障を重ねてしまうことがあります。
医療保険はどこまで必要か
医療保険は、入院や手術に備える保険です。
老後においては、医療費そのものよりも、差額ベッド代や雑費など、公的制度でカバーされない支出への備えとしての意味合いが強くなります。
そのため、高額な給付を狙った医療保険よりも、最低限の保障を確保する程度で十分なケースが多くなります。
医療費の大部分を保険で賄おうとする発想は、現実的とはいえません。
介護保険の考え方
民間の介護保険は、要介護状態になった場合に給付を受けられる保険です。
ただし、給付条件が厳しく、実際に給付を受けられるまでに時間がかかるケースもあります。
介護は、費用が長期にわたる可能性が高いため、保険だけで対応するのは難しい分野です。
民間介護保険は、介護開始時の初期費用や一時的な負担を補う位置づけで考えるのが現実的です。
社長・個人事業主が保険に頼りすぎるリスク
社長や個人事業主に多いのが、「保険に入っているから安心」という心理です。
しかし、保険料は現役時代から長期間支払い続ける固定費であり、老後資金を圧迫する要因にもなります。
また、保険は契約内容によってはインフレに弱く、実質的な保障価値が低下する可能性があります。
長期にわたる老後リスクに対しては、保険よりも資産の方が柔軟に対応できます。
民間保険と資産の役割分担
老後対策としては、次のような役割分担が一つの目安になります。
民間保険は、突発的・初期的なリスクへの備えに限定します。
医療・介護が長期化した場合の継続的な支出は、新NISAなどの流動性の高い資産で対応します。
生活費の基盤は公的年金で確保します。
この分担を意識することで、保険と資産のバランスが取りやすくなります。
保険を見直す視点
民間保険を考える際には、「いくらもらえるか」ではなく、「どのリスクを移転したいか」を基準に考えることが重要です。
老後においては、すべてのリスクを保険でカバーする必要はありません。
自分の資産状況や他の制度を踏まえ、保険でしか対応できない部分に絞って備える視点が求められます。
結論
民間保険は、老後対策において重要な役割を果たしますが、万能ではありません。
公的制度と資産形成を前提としたうえで、保険は補完的に活用するのが現実的です。
社長・個人事業主にとっては、民間保険に過度に依存するよりも、新NISAや退職金などの資産と組み合わせて備えることが、長期的な安心につながります。
民間保険は「どこまで必要か」を見極めて使うべき道具であり、老後資金設計の主役ではないといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「新NISA、2年目は7%増の12兆円 資産形成、インフレで拡大」(2025年12月30日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
