暗号資産を担保にした資金調達という第三の選択肢――売らない出口設計

経営

事業承継後に暗号資産を売却する場合、法人税の集中、二段階課税、価格変動リスクなどが顕在化します。
そこで浮上するのが、「売らずに活用する」という第三の選択肢です。

すなわち、暗号資産を担保に資金を調達するという発想です。

本稿では、税務・法務・資金繰りの観点から、その可能性とリスクを整理します。


1.基本構造:売却せずに流動化する

暗号資産を担保として差し入れ、金融機関や専門事業者から融資を受ける――。
理論上は、不動産担保融資と同じ構造です。

この場合、

  • 暗号資産の含み益は実現しない
  • 法人税は発生しない
  • 株価評価への即時影響は限定的

という特徴があります。

つまり、税負担を発生させずに流動性を確保できる可能性があります。


2.税務上の扱い

暗号資産を担保に差し入れても、原則として譲渡ではありません。
したがって、含み益に対する法人税は発生しません。

ただし、担保設定契約の形態によっては、実質的に支配権移転とみなされるリスクがあります。
特に海外プラットフォームを利用する場合は慎重な検討が必要です。

また、利息は法人の損金算入対象となる可能性がありますが、過度な借入は過少資本税制や関連者取引規制との関係も考慮する必要があります。


3.価格変動リスク(マージンコール)

最大のリスクはボラティリティです。

暗号資産価格が急落すれば、担保価値が毀損し、追加担保差入れ(マージンコール)や強制清算が発生する可能性があります。

承継直後の会社にとって、強制清算は財務の不安定化につながります。

つまり、
「税金は繰り延べられるが、市場リスクは残る」
という構造です。


4.承継税制との関係

暗号資産を担保にしても、原則として承継税制の継続要件には直接影響しません。

しかし、借入金が増加し、財務構造が大きく変化する場合、

  • 事業継続性
  • 財務健全性
  • 実質的支配の変化

が問われる可能性があります。

特に、外部ファンドや関連当事者が関与する場合は慎重な設計が必要です。


5.資金使途の問題

担保融資で得た資金を何に使うかが重要です。

  • 設備投資
  • M&A資金
  • 運転資金
  • 株式買取資金

事業拡大に使うのであれば、制度趣旨との整合性は高まります。
一方、個人への資金移転目的であれば、二次課税や否認リスクが生じる可能性があります。


6.出口戦略としての位置づけ

売却は「課税とリスクを同時に確定させる」行為です。
担保融資は「課税を先送りし、リスクを市場に委ねる」行為です。

どちらが適切かは、

  • 価格見通し
  • 事業計画
  • 承継後の財務体力

によって変わります。

特に、将来価格上昇を見込む場合、売却より担保活用の方が合理的な場合もあります。


7.実務上の設計ポイント

暗号資産担保融資を承継スキームに組み込む場合、次の点が重要です。

  1. 担保契約の法的整理
  2. 清算条項の詳細確認
  3. LTV(融資比率)の保守的設定
  4. 価格急落時の対応計画
  5. 承継税制との整合確認

単なる資金調達手段ではなく、財務戦略の一部として設計する必要があります。


結論

暗号資産を担保にした資金調達は、
「売却」でも「保有継続」でもない第三の選択肢です。

税負担を発生させずに流動性を確保できる一方で、市場リスクは残ります。

承継後の設計においては、

  • 即時課税を受け入れてリスクを確定させるか
  • 課税を繰り延べ、市場リスクを引き受けるか

という選択になります。

暗号資産は、売却か保有かという二択ではありません。
設計次第で、資金調達ツールにもなります。

ただし、それは高度なリスク管理を前提とした戦略です。
時間軸と財務体力を見極めたうえで、慎重に位置づける必要があります。


参考

日本経済新聞 朝刊 2026年2月27日
「ポジション〉米投資家、ビットコイン離れ」

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