暗号資産はこれまで、個人の投機的資産として語られることが多くありました。しかし価格規模の拡大や法人保有の増加により、もはや「承継対象外」とは言い切れない存在になっています。
では、暗号資産を事業承継スキームに組み込むことは可能なのでしょうか。本稿では、税務・評価・実務の観点から整理します。
前提:暗号資産は“承継可能資産”である
相続税法上、暗号資産は財産的価値を有するものとして評価対象になります。したがって、理論上は株式や不動産と同様に承継可能です。
問題は「どう組み込むか」です。
承継設計は通常、
- 自社株式
- 事業用不動産
- 事業資金
を中心に組み立てられます。暗号資産はこの枠組みに直接は入っていません。
個人保有の場合の論点
個人が暗号資産を保有している場合、相続時には時価評価されます。価格変動が激しいため、評価時点によって税額が大きく変わる可能性があります。
さらに問題となるのが「管理」です。
- 秘密鍵の所在
- 取引所口座へのアクセス
- 二段階認証の解除
これらが承継されなければ、法的には相続できても実質的に移転できないリスクがあります。
したがって、個人保有の暗号資産は、従来の資産以上に「情報承継設計」が不可欠になります。
法人保有型との接続
暗号資産を法人で保有している場合、承継対象は暗号資産そのものではなく「株式」です。
この場合、事業承継税制との接続可能性が生まれます。
自社株の承継スキームに組み込めば、暗号資産は法人内部資産として包括的に移転されます。価格変動は法人内部で吸収され、承継は株式単位で行われます。
ただし注意点もあります。
暗号資産の含み益が大きい場合、株価評価が上昇し、承継時の評価額が膨らむ可能性があります。特に非上場株評価では、純資産価額方式への影響が無視できません。
持株会社スキームとの親和性
暗号資産を直接事業会社に組み込むのではなく、持株会社や資産管理会社に保有させる設計も考えられます。
この場合、
- 事業リスクと価格変動リスクの分離
- 承継対象の明確化
- 資産運用機能の独立
といったメリットがあります。
特に、将来的なM&Aや外部資本導入を視野に入れる場合、暗号資産を本業から切り離しておく方が合理的なケースもあります。
価格変動リスクと承継タイミング
暗号資産を承継スキームに組み込む最大の難点は、ボラティリティです。
承継直前に価格が高騰すれば評価額が跳ね上がり、逆に暴落すれば資産価値が毀損します。
この特性は、計画的承継と相性が悪い側面があります。
したがって、
- 段階的移転
- 法人内留保による価格変動の吸収
- 他資産とのバランス設計
といった工夫が必要になります。
事業承継税制との接続可能性
現行の事業承継税制は、自社株式の承継を前提としています。暗号資産自体が直接対象になるわけではありません。
しかし、法人内資産として保有されていれば、制度上は株式評価の一部として扱われます。
ここで重要なのは、暗号資産の比率が高すぎると「実態が資産管理会社に近い」と評価されるリスクです。事業実態とのバランスが問われます。
出口設計としての可能性
暗号資産を承継に組み込むことは可能です。ただしそれは、
「承継対象資産」ではなく
「承継スキームの一部」
として設計する必要があります。
特に、将来の出口が
- 親族承継か
- 従業員承継か
- M&Aか
によって設計は大きく変わります。
暗号資産は流動性が高い反面、価格不安定性が高いという二面性を持ちます。この特性をどう活用するかが鍵になります。
結論
暗号資産を事業承継スキームに組み込むことは可能です。しかし、それは単純な資産移転ではなく、法人設計・評価設計・出口設計を含めた総合的な構造設計が必要になります。
暗号資産は事業の中心資産にはなりにくい一方で、資産戦略の一部としては組み込み可能です。
重要なのは、「何を承継したいのか」という原点です。
事業そのものか。
資産価値か。
キャッシュフローか。
暗号資産は、その問いに対する一つの選択肢に過ぎません。設計の主役は常に事業の将来像です。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年2月27日
「ポジション〉米投資家、ビットコイン離れ」
