「バックオフィスは軽視されがち」――。
多くの経理・総務・人事担当者が感じてきたこの現実に、今、大きな変化の波が訪れています。
『企業実務』900号記念鼎談(税理士×社労士×弁護士)では、3人の専門家が口を揃えて「バックオフィスは企業の土台であり、戦略の一部にならなければならない」と語りました。
本稿では、その要点を踏まえながら、これからのバックオフィス像を整理します。
1. 「支援部門」から「経営参謀」へ
経理・総務・人事・法務――。
いずれも「売上をつくる部門ではない」と見られがちな領域ですが、実際には会社を支えるリスク管理と意思決定の土台を担っています。
たとえば請求・回収・与信管理の仕組みは、営業活動の裏側でキャッシュフローを守り、倒産リスクを防ぐ“見えない盾”。
しかし現場では、締切直前に「経理なら何とかしてくれる」と丸投げされる場面も少なくありません。
こうした構造を変えるには、バックオフィス側が「できること・できないことの線引き」を明確にし、対等な関係で組織を支える意識が欠かせません。
2. 人的資本経営の中核としてのバックオフィス
人事労務・会計・法務は、今や「人材版伊藤レポート2.0」が示す人的資本経営の実践に直結する部門です。
- 経営戦略と人材戦略を連動させる
- データを経営判断に活かす
- 社員のスキル・エンゲージメントを可視化する
中小企業では「CHRO(最高人事責任者)」の設置は難しくても、経営者とバックオフィスが一体となって“人を活かす経営”を考えることで、人材定着・採用力向上にもつながります。
3. 属人化を断ち切る ― DX・AIとの共存戦略
「自分にしかできない仕事」を誇りに思う反面、それがブラックボックス化・不正リスクの温床になるケースも少なくありません。
今後は、AI・DXを活用してタスク単位に分解し、「人がやるべき判断業務」と「AIに任せる作業」を切り分ける発想が必要です。
税理士の植西氏は「生成AIは、経理や法務のマクロ・スクリプト作成など、単純反復業務の効率化に有効」と指摘。
一方、社労士の宮武氏は「感情や人間関係が関わる場面では、AIより人間の共感力が重要」と語ります。
AIを“代替”ではなく“共存”の道具として活かす柔軟さこそ、これからのバックオフィスの競争力となります。
4. 採用・育成で差がつく「中小企業の人材戦略」
採用市場では、大企業も中途採用を拡大し、競争が激化しています。
中小企業が勝つには、自社のカルチャーと理念を言語化し、共感で人を惹きつける採用広報が欠かせません。
同時に、「即戦力採用」にこだわるより、
・カルチャーフィットした人を育てる
・インターンやリファラル採用を組み合わせる
といった柔軟な戦略が求められます。
人的資本経営をうたう企業が選ばれる時代、中小企業にも「人を大切にする姿勢」を見せることが重要です。
5. キャリア開発 ― 広く浅く+ひとつ深く
バックオフィス人材の理想像は、T字型キャリア。
幅広い業務知識を持ちながら、管理会計・採用戦略・契約実務など、1つの専門分野を深めて経営にリーチする。
この「縦の深掘り」が、AI時代における人間の価値を高めます。
さらに、資格取得や業務改善の経験を通じて「社内で唯一の相談相手」になることが、長期的なキャリアの武器になるでしょう。
6. まとめ ― バックオフィスが変われば会社が変わる
鼎談の最後で3氏は共通して次のように語りました。
「バックオフィスは企業の存在価値を共に考える“経営のパートナー”である」
定型業務をこなすだけでなく、
・経営の言葉で語り、
・AIを使いこなし、
・人と組織を動かす。
その総合力こそが、これからのバックオフィスに求められる真の価値です。
✏️編集後記
この記事を読んで思うのは、「経理」「総務」「人事」「法務」という線引きが次第に溶けつつあること。
AIと人の共創が進む今、“数字・人・法の交点”に立つバックオフィスが、経営の羅針盤となる時代が始まっています。
- 出典:『企業実務』2025年6月号「税理士×社労士×弁護士が語る 時代が求めるバックオフィスの在り方とは!?」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
