―― 最高値更新が映し出す個人投資家の変化
1. 日本株市場の熱気と冷静さ
2025年夏、日経平均株価が最高値を更新しました。株式市場は大きな節目を迎え、証券会社や取引所が主催するセミナーは連日満席。大阪の金融街・北浜では、日本取引所グループ(JPX)のセミナーに平日にもかかわらず延べ200人が集まり、会場は立ち見も出る盛況となりました。
「三菱UFJフィナンシャル・グループの配当利回りは3%。預金するなら株を買った方がいい」。人気ストラテジストの軽妙な話術に、投資初心者を含む聴衆が引き込まれていく。ここには、株式投資をこれまで「怖いもの」と思っていた人々も姿を見せていました。
投資に対する意識の変化は確実に進んでいます。しかし同時に、統計データを見ると「個人は株を売り越している」という現実が浮かびます。東京証券取引所のまとめによると、年初から8月末までに個人投資家は合計3兆円を売り越しました。
この対照的な姿勢――市場の熱気と冷静な売却行動――は、まさに世代によって分かれています。
2. シニア世代が売る理由
売り越しの主体は、バブル期に株を購入した高齢層です。大きな利益を抱える彼らは、株価が最高値を更新したタイミングで利益を確定しようと考える傾向があります。老後の生活設計や資産の安定化を重視し、これ以上の上値追いよりも「確実に手元に残す」ことを優先するのです。
また、シニア世代にとっては「株価はいつか下がるもの」という経験則も背景にあります。バブル崩壊やリーマン・ショックなど、市場の急落を何度も体験した世代にとって、現在の高値は「逃げ時」と映るのかもしれません。
3. 若い世代はなぜ強気なのか
一方で、若い世代の投資家はまったく逆の姿勢を見せています。
20代の会社員は、入社直後にNISA口座を開設して投資を開始。「日本株はこれからも上がる」と考え、積極的に投資金額を増やしています。大学生投資家の中には「アナリストが見ていない小型株にこそ妙味がある」と自ら調べ、リスクを取りながら挑戦する姿もあります。
彼らが強気でいられる理由はいくつかあります。
- 長期投資が前提であること
- 資産形成のスタート地点に立ったばかりで、目先の上下に振り回されにくいこと
- 過去のバブル崩壊を経験していないため、将来の株価上昇を素直に信じやすいこと
実際、金融庁のデータでは、NISA口座全体に占める30歳以下の比率は2015年には14%にすぎませんでしたが、2024年には30%へと急増しました。世代交代の波が、数字にも表れているのです。
4. 企業が注目する「個人株主」
個人投資家の存在感が増す中で、企業側も新しい対応を模索しています。たとえば「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルHDは、社長自ら「個人株主が少なすぎる」と反省を口にしました。実際に同社の個人株主比率は2%と低く、イオンや良品計画と比べても大きく見劣りします。
個人株主の増加は、単に株主構成を多様化させるだけではありません。ブランドへの信頼、商品の愛用、経営への関心を高める効果が期待でき、企業にとってもプラスとなるのです。
5. まとめ ― 世代交代が進む日本株市場
今回の日経平均最高値は、単なる株価の更新ではありません。市場の主役が入れ替わりつつあることを示すシグナルでもあります。シニア世代は資産を守るために売り、若者世代は将来を信じて買い向かう。このコントラストが市場の新しい姿を形作っています。
資産形成の舞台は、確実に若い世代へと移行しています。投資を始めるきっかけがNISAであれ、将来の不安であれ、「資産を育てる」という行動が習慣化されつつあるのです。
次回は、**若い世代が直面する「投資のリスクと落とし穴」**について掘り下げていきます。
📖 参考記事
日本経済新聞 (2025年9月17日 朝刊)「日本株、熱気なき最高値(中) 『まだ上がる』若者は強気」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

