日本国債の市場では、さまざまな投資家が取引に参加しています。銀行、保険会社、年金基金、海外投資家などが代表的ですが、現在、最も大きな影響力を持つ投資家は日本銀行です。
2013年以降、日本銀行は大規模な金融緩和政策を実施し、大量の国債を購入してきました。その結果、日本国債市場における最大の保有主体となりました。
現在の金融政策を理解するためには、日銀がどのように国債を保有し、どのような方法で金利をコントロールしているのかを理解することが重要です。本稿では、日本国債市場における日銀の位置付けと、現在の金融政策の仕組みについて整理します。
日本国債市場の最大の投資家としての日銀
日本銀行は中央銀行であり、本来は民間投資家のように収益を目的として国債を購入しているわけではありません。金融政策を実施するための手段として国債を保有しています。
2013年、日本銀行は量的・質的金融緩和を導入しました。これは市場に大量の資金を供給し、デフレ脱却を目指す政策です。この政策の中心にあったのが国債の大量購入でした。
国債を購入することで市場に資金を供給し、長期金利を押し下げる効果を狙ったのです。
その結果、日本銀行の国債保有残高は急速に増加しました。現在では、日本国債市場の最大の保有主体となっています。
イールドカーブ・コントロールの導入
2016年、日本銀行は新たな金融政策としてイールドカーブ・コントロールを導入しました。
これは、短期金利と長期金利の両方を政策的に誘導する仕組みです。
短期金利については、無担保コール翌日物金利を誘導目標とし、長期金利については10年国債利回りを一定の水準に保つことを目指しました。
この政策により、日本銀行は国債市場において金利の形状、すなわちイールドカーブをコントロールする役割を担うことになりました。
ただし、この段階から国債購入のペースは徐々に調整されるようになります。
利上げと短期金利の誘導メカニズム
近年の金融政策の転換を理解するうえで重要なのは、日本銀行が利上げをどのように実施しているかという点です。
日本銀行は、国債を売却して金利を引き上げているわけではありません。
もし日銀が大量の国債を売却するという情報が広がれば、市場は大きく動揺する可能性があります。日本銀行はすでに膨大な国債を保有しているため、市場への影響が極めて大きくなるためです。
そのため、日本銀行は別の方法で短期金利を誘導しています。
その中心にあるのが「付利制度」です。
これは、金融機関が日本銀行に預けている当座預金に対して利息を付ける仕組みです。日本銀行はこの付利金利を調整することで、短期金利をコントロールしています。
無担保コール市場と付利金利
日本銀行が誘導している短期金利は、無担保コール市場の翌日物金利です。
無担保コール市場とは、金融機関同士が短期資金を貸し借りする市場です。期間は通常1日であり、金融市場の基準となる短期金利が形成されます。
市場には、銀行のように日本銀行の当座預金に資金を預けられる主体と、ファンドのようにそれができない主体が存在します。
銀行は、付利金利より低い金利で資金を借りることができれば利益を得ることができます。借りた資金を日本銀行に預ければ、付利金利を受け取ることができるためです。
そのため、無担保コール市場の金利は、付利金利を基準にして形成されます。
実際に、日本銀行が2025年12月に付利金利を0.5%から0.75%に引き上げた際、無担保コール翌日物金利も0.75%付近まで上昇しました。
このように、現在の日本の金融政策では、付利金利が短期金利の基準として機能しています。
国債保有残高の縮小と量的引き締め
日本銀行は現在、保有する国債残高を徐々に減少させています。
ただし、国債を市場で売却しているわけではありません。
国債には満期があります。そのため、日本銀行が新たな国債購入を減らせば、満期償還によって保有残高は自然に減少していきます。
このように、中央銀行が資産保有を徐々に縮小する政策を量的引き締め(QT)といいます。
量的緩和の時代に積み上がった国債残高を、金融市場への影響を抑えながらゆっくりと減らしていくことが、現在の金融政策の重要な課題となっています。
結論
現在の日本国債市場では、日本銀行が最大の投資家として大きな存在感を持っています。
しかし、日本銀行は民間投資家とは異なり、金融政策の実施を目的として国債を保有しています。そのため、金融政策の転換期においても、国債を売却して市場金利を動かすのではなく、付利金利を通じて短期金利を誘導する仕組みが採用されています。
また、国債残高の縮小についても、市場の混乱を避けるために売却ではなく償還を通じて徐々に進められています。
日本銀行の金融政策を理解するうえでは、国債市場だけを見るのではなく、短期金融市場や付利制度の仕組みまで含めて考えることが重要です。中央銀行の政策運営は、こうした複数の市場のメカニズムを組み合わせながら行われているのです。
参考
日本経済新聞「やさしい経済学 初歩から学ぶ日本国債(9) 市場で最大の投資家は日銀」2026年3月11日
服部孝洋(東京大学特任准教授)

