政策減税の総点検と「新しい積極財政」 ― 給付付き税額控除との整合を探る

政策

高市早苗政権のもとで始まった「政策減税の総点検」。
その背景には、単に財政再建を進めるだけでなく、「積極財政と分配の再構築」という大きな政策転換の意図があります。
研究開発税制や賃上げ促進税制の見直しは、その象徴的な一歩に過ぎません。
では、この動きはどのように「給付付き税額控除」や「一体改革」の流れとつながっているのでしょうか。

1. 「責任ある積極財政」とは何か

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、単なる歳出拡大ではなく、無駄を削りながら必要な分野に集中投資するという考え方です。
従来型の「一律の減税・補助金」ではなく、政策効果を明確に測定し、成果の低い制度を整理する方向へと転換しています。

財務省が主導する租税特別措置(租特)の点検は、この考え方を具体化する動きです。研究開発税制や賃上げ促進税制の効果を数値的に検証し、成長や所得分配に実際に寄与しているかを可視化しようとしています。
これは、積極財政を「無制限の支出」ではなく「戦略的な再配分」として捉え直す試みともいえます。


2. 政策減税から「給付付き税額控除」へ

現在、与野党間で議論が進む「給付付き税額控除」は、税制を通じて低所得層への支援を強化する制度です。
税額控除に加え、一定の所得以下の層には現金給付も行うもので、「働く人を支援する再分配」として欧米でも定着しています。

高市首相が表明した「税と社会保障の一体改革」は、この制度設計を柱に据えています。
すなわち、企業への減税(供給サイドの支援)から、個人・家計への直接支援(需要サイドの再分配)へと、政策の重心を移そうとしているのです。

租特の整理は、こうした「再配分型税制」への財源づくりでもあります。
つまり、研究開発や賃上げに対する企業支援を見直し、その分を家計支援へ振り向ける――それが新しい「積極財政」の方向性といえます。


3. 経産省の視点 ― 成長投資を止めないために

他方、経済産業省は「租特縮小=投資の減速」につながることを懸念しています。
AI・宇宙・グリーンエネルギーなどの重点産業は長期投資が前提であり、税制支援の急な後退は民間の研究開発意欲を削ぐ恐れがあります。
特にOECD加盟国の多くが研究開発減税を維持・強化している現状では、日本だけが縮小に向かうと国際競争力の低下を招きかねません。

経産省の立場から見れば、「給付付き税額控除」は社会保障政策として重要であっても、産業政策の柱である租特は切り離して考えるべき、という主張です。
結果として、財務省・経産省の間で「分配」と「成長」をめぐる政策哲学の対立が浮き彫りになっています。


4. 政策の焦点 ― 「どの減税を、どこまで残すか」

租税特別措置の数は373項目、減収額は約2.9兆円に達します。
このうち約6割が企業向けであり、産業界からの要望を受けて延長を繰り返してきました。
一方で、政策目的を果たした項目や、重複する制度も少なくありません。

高市政権は、こうした項目を精査し、

  • ① 成長分野に直結するもの(AI、グリーン等)は維持・拡充
  • ② 効果が薄れたもの(賃上げ税制など)は縮小・統合
  • ③ 廃止分の財源を給付付き税額控除に転用
    という「選択と集中」を目指しています。

政策減税を単なる景気対策としてではなく、「財政の最適化」と「再分配の財源確保」を両立させる制度改革として位置づけるのが、今回の総点検の本質です。


結論

研究開発税制や賃上げ促進税制の見直しは、表面的には税の議論に見えますが、その背後には「経済の新しい均衡」を模索する政府の戦略が隠れています。
企業支援から家計支援へ。成長投資と分配改革をどう両立させるか。
高市政権の「責任ある積極財政」は、財政規律と再分配を融合させる難しい実験でもあります。

年末の税制改正大綱では、「給付付き税額控除」と「租税特別措置の再設計」がどのように結びつくかが最大の焦点となるでしょう。
政策減税の総点検は、財政改革の入口であると同時に、日本経済の構造転換の試金石でもあります。


出典

・日本経済新聞「企業向け政策減税、省庁が改廃巡り論戦」(2025年10月31日)
・財務省「租税特別措置に関する報告書(令和6年度)」
・内閣府「税と社会保障の一体改革に関する論点整理(2025年10月)」
・経済産業省「研究開発税制・賃上げ促進税制の効果検証報告(令和6年版)」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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