持ち家優遇は本当に中立か ― 住宅税制の“見えないバイアス”

税理士
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日本の住宅政策は、長年にわたり持ち家取得を後押ししてきました。住宅ローン控除、固定資産税の軽減措置、譲渡時の3,000万円特別控除など、制度は取得から譲渡まで各段階に配置されています。

形式上、これらの制度は「住宅を取得した人」に適用されるものであり、世帯属性による差別はありません。しかし、制度は本当に中立なのでしょうか。本稿では、持ち家優遇とされる住宅税制の構造を検証します。


中立とは何を意味するのか

税制の中立性にはいくつかの概念があります。

1.経済活動に歪みを与えないこと
2.特定の選択を過度に誘導しないこと
3.所得階層間で公平であること

住宅税制は、そもそも「取得を促進する」政策目的を持っています。したがって、行動誘導を内包した制度です。

この時点で、完全な意味での中立ではありません。


賃貸との税負担の差

持ち家と賃貸を比較すると、

・持ち家 → 住宅ローン控除などの税制支援
・賃貸 → 原則として個人に対する税制支援は限定的

という違いがあります。

賃貸住宅の家賃には消費税は課されませんが、家賃そのものへの直接的な所得税控除はありません。

結果として、住宅取得者には税制上の支援が明確に存在し、賃貸居住者には同様の支援は存在しません。

制度は「所有」という選択を相対的に優遇しています。


資産形成への影響

持ち家は家計資産の中核を占めます。

住宅価格が上昇する局面では、

・保有者 → 含み益の増加
・非保有者 → 取得コスト上昇

という構造になります。

取得支援税制が需要を下支えすることで価格水準が維持されれば、保有者にとっては資産価値の安定につながります。

これは結果的に、資産形成面での差を拡大する可能性があります。


税額控除という構造的特徴

住宅ローン控除は税額控除です。

税額控除は、

・所得税額が大きい層ほど恩恵を受けやすい
・税額が少ない層では十分に活用できない

という特性を持ちます。

形式上は同じ制度でも、実質的な恩恵は所得水準に応じて変わります。

中立に見える制度も、構造上は均一ではありません。


持ち家優遇は政策的選択である

住宅政策の背景には、

・生活基盤の安定
・地域コミュニティの維持
・景気対策

といった政策目的があります。

持ち家促進は、これらを達成するための政策手段と位置づけられてきました。

したがって、持ち家優遇は偶然の産物ではなく、意図的な政策設計です。

問題は、その政策が現在の社会構造と整合しているかどうかです。


社会構造の変化とのズレ

近年は、

・単身世帯の増加
・転職の一般化
・都市部集中

といった変化が進んでいます。

長期定住を前提とする持ち家モデルは、多様な働き方と必ずしも一致しません。

にもかかわらず、税制は依然として所有を前提とした設計になっています。

ここに、制度と社会のズレが生じています。


中立性を再定義する必要性

持ち家優遇を完全に廃止すべきかという議論は単純ではありません。

しかし、少なくとも次の視点は必要です。

1.所有と賃貸の選択に対してどの程度誘導が許容されるのか
2.所得階層間で恩恵が偏っていないか
3.世代間の資産格差を助長していないか

税制の中立性は「制度が同じであること」ではなく、「結果が過度に偏らないこと」と再定義する必要があります。


結論

持ち家優遇は形式上は中立に見えますが、

1.賃貸との比較では非対称
2.所得水準により効果が異なる
3.資産価格維持を通じて保有者に有利

という構造を持っています。

住宅税制は、単なる取得支援ではなく、資産分配にも影響を与える制度です。

持ち家優遇が中立かどうかを問うことは、住宅政策そのものの目的を問い直すことでもあります。

制度は選択を誘導します。

その誘導が、現在の社会構造に適合しているかどうかを検証することが、今後の住宅税制を考える出発点となります。


参考

・国税庁「住宅借入金等特別控除のあらまし」令和7年分
・総務省「住宅・土地統計調査」
・総務省「家計調査」
・内閣府「国民経済計算」

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