これまで3回にわたり「税効果会計」の基本や減損との関係、繰延税金資産の計上と取り崩しの実例を解説してきました。
第4回となる今回は、少し視点を変えて 「投資家や一般の読者が決算書を読むときに、税効果会計をどう理解すべきか」 という観点からお話しします。
「税金費用」はそのまま信じていい?
損益計算書(PL)を開くと、営業利益、経常利益と並んで「税金等調整前当期純利益」「法人税等」といった項目が並びます。
投資家や株主の多くは「税引前利益に税率をかけたら税金費用になる」と考えがちです。
しかし実際には、前回までに見たように、財務会計と税務会計のズレがあるため、単純に計算した額とは一致しません。
例:
- 財務会計の利益=30億円
- 法定実効税率=30%
- 理論上の税額=9億円
- 実際の「法人税等」=12億円 or 6億円
このように乖離があると、決算書を読む側にとっては混乱のもとになります。ここを理解するために登場するのが「税効果会計」です。
実効税率に注目する
決算書には、税引前利益と実際に計上された法人税等をもとに「実効税率」が算出されています。
実効税率 =(法人税等 ÷ 税引前利益)×100
この数値が法定実効税率(約30%前後)と大きく乖離している場合は注意が必要です。
- 実効税率が極端に低い場合
→ 海外子会社からの配当金など、税務上益金に算入されない収益が多い可能性 - 実効税率が極端に高い場合
→ 減損や繰延税金資産の取り崩しで、会計上の税金費用が増えている可能性
つまり、実効税率の動きを見ることで「どんな要因で利益と税金がズレているのか」を推測できるのです。
貸借対照表(BS)の「繰延税金資産・負債」
次に注目すべきは貸借対照表です。ここには「繰延税金資産」「繰延税金負債」という項目が記載されています。
- 繰延税金資産:将来の税負担を軽くする見込みのある資産
- 繰延税金負債:将来の税負担が増える見込みのある負債
繰延税金資産の金額が大きい企業は、会計上「今後も利益を出す」と見込んでいることになります。
一方で、その前提が崩れた場合には大幅な取り崩しリスクを抱えることになります。
注記を読むとわかること
上場企業の有価証券報告書や決算短信には「税効果会計に関する注記」が記載されています。
ここには:
- 繰延税金資産・負債の内訳
- 回収可能性の判断方法
- 実効税率と法定税率の差異分析
などが書かれており、企業がどのように見積もっているかを知ることができます。
特に「差異分析」は要チェックです。
「受取配当金が益金不算入だから-〇%」「繰延税金資産の回収見込みが減少したから+〇%」など、実効税率と法定税率がズレる理由が詳しく書かれています。
投資家がここを読むことで、単に「利益が増えた/減った」以上に、その背後にある税務・会計の背景を理解できます。
投資家にとってのポイント
投資家が税効果会計を見るときに大事なポイントは次の3つです。
- 実効税率の動き
→ 税率が急変している場合は、一時的な要因(減損・繰延税金資産の取り崩しなど)を疑う。 - 繰延税金資産の規模
→ 純資産に対する比率が高い企業は、取り崩しリスクを抱えている。 - 注記での説明
→ 実効税率がズレた理由を読むことで、企業の経営環境や将来の収益力のヒントが得られる。
なぜ一般の人にとっても重要なのか?
「投資家向けの専門的な話でしょ?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、税効果会計を知っていると、ニュースで報じられる「繰延税金資産の取り崩し」や「実効税率の変動」の意味を理解できるようになります。
それはつまり、企業の将来に対するシグナルを読み取れるようになるということです。
特に日本企業は税効果会計の影響が大きいため、株価や信用力に直結する場合も少なくありません。
まとめ
- 「税金費用」は単純に利益×税率ではなく、財務と税務のズレを反映している
- 投資家は「実効税率の変化」「繰延税金資産の規模」「注記の分析」に注目すべき
- 税効果会計を理解することで、企業の将来見通しやリスクを読み解ける
👉参考:日本経済新聞「会計フォローアップ(3)税効果会計 財務と税務のズレ調整」(2025年9月18日付 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
