承継後M&Aを前提にした設計 ― 事業承継税制と出口戦略の再構築

税理士
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事業承継税制は、非上場株式の相続税・贈与税を猶予する強力な制度です。しかし近年、承継をゴールとせず、その後のM&Aを戦略に組み込むケースが増えています。

いったん後継者に承継し、経営体制を整えたうえで、数年後に第三者へ譲渡する。この二段階戦略は現実的な選択肢となっています。ただし、事業承継税制を適用している場合、その後のM&Aは「出口リスク」と直結します。

本稿では、承継後M&Aを前提とした設計の論点を整理します。


事業承継税制と株式譲渡の関係

事業承継税制は、後継者が株式を継続保有し、代表者として経営を維持することを前提としています。

そのため、

・第三者への株式譲渡
・支配権の移転
・一定割合以上の株式移動

が生じた場合、猶予税額が確定する可能性があります。

つまり、承継後にM&Aを行えば、原則として猶予は打ち切られる前提で設計する必要があります。


二段階戦略の基本構造

承継後M&Aの典型的な流れは次のとおりです。

  1. 親世代から後継者へ承継(事業承継税制を適用)
  2. 数年間、後継者が代表として経営を継続
  3. 企業価値を高めた後、第三者へ売却

この戦略の狙いは、

・経営の安定化
・企業価値向上
・高値売却

にあります。

しかし問題は、M&A実行時に猶予税額が確定する点です。


猶予打切りを前提にした資金設計

承継後に売却する可能性が高い場合、「猶予は一時的措置」と捉える必要があります。

重要なのは、売却対価の中から猶予税額を確実に支払える設計にしておくことです。

実務上の確認事項

・承継時点の猶予税額を明確に把握しているか
・将来の株価変動リスクをどう見込むか
・売却スキーム(株式譲渡か事業譲渡か)との整合

売却益が十分に見込める場合、猶予税額の確定は実質的な問題にならないケースもあります。しかし業績悪化や市場環境変動により想定価格で売却できない場合、資金不足が生じます。


株価水準と承継タイミング

承継後M&Aを前提とする場合、承継時の株価水準が重要になります。

株価が高騰した局面で承継すると、

・猶予税額が高額化
・将来売却時の価格変動リスク増大

という構造になります。

一方、株価が相対的に低い局面で承継すれば、猶予税額は抑制され、後のM&A時に評価差益を享受できる可能性があります。

承継時期の判断は、単なる年齢要因ではなく、株価水準と市場環境を踏まえて行うべきです。


持株会社・資本政策との接続

承継後M&Aを見据える場合、持株会社化や株式集約の設計も重要になります。

・議決権の集中
・少数株主整理
・資本構成の簡素化

これらは売却時の条件交渉に大きく影響します。

ただし、組織再編が承継税制の要件に抵触しないかを事前に確認する必要があります。資本政策と税制要件の整合は不可欠です。


所得税・相続税との連動

極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置の強化により、配当抑制や内部留保増加が進むと、株価が押し上げられます。

承継後M&Aを前提とする場合、この内部留保は売却価格に反映されますが、同時に猶予税額も高額化します。

所得税、相続税、M&A譲渡所得課税の三層構造を意識した設計が必要になります。


戦略的選択としての承継後M&A

承継後M&Aは、後継者の成長機会確保や企業存続の選択肢として合理性があります。

しかし、事業承継税制を利用している場合、

・制度維持を優先するか
・成長戦略を優先するか

という判断が生じます。

制度に縛られて売却機会を逃すのか、売却を選択して猶予を清算するのか。この判断は、税務ではなく経営戦略の問題です。


結論

承継後M&Aを前提とする設計では、事業承継税制は一時的な負担繰延措置と位置付けるのが現実的です。

猶予税額の確定を織り込んだ資金計画、承継時点の株価水準の見極め、資本政策との整合が不可欠です。

極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置の強化が、配当政策や留保水準を通じて株価を押し上げる可能性がある以上、承継後M&A戦略は、所得税・相続税・譲渡所得課税を一体で設計する必要があります。

制度を守るための経営ではなく、経営戦略に制度をどう組み込むか。その視点が求められます。


参考

税のしるべ「極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置の適用がある場合の申告書等の記載例を公表」2026年2月23日
自由民主党「令和8年度税制改正大綱」2025年12月公表
国税庁「非上場株式等に係る納税猶予制度の概要」最新版

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