事業承継税制を活用し、株式を後継者へ移転した後、会社が保有する暗号資産を売却する――。
この設計は一見合理的に見えます。承継時の評価は株式単位で行われ、暗号資産の含み益は法人内部に残るからです。
しかし、「承継後売却」は税務上、いくつかの重要なリスクを内包します。本稿では、法人税・承継税制・評価・キャッシュフローの観点から整理します。
1.法人税リスク:含み益の一括実現
承継前は含み益であっても、売却すれば法人税課税が発生します。
暗号資産は価格変動が大きいため、取得原価との差額が巨額になるケースもあります。
売却年度に利益が集中すると、法人税負担が急増し、資金繰りに影響します。
特に、
- 多額の含み益を一括売却
- 他事業の利益と合算される
- 欠損金が十分にない
場合には、想定以上の税負担が発生する可能性があります。
2.承継税制の継続要件との関係
事業承継税制は「猶予」です。
一定の継続要件(雇用維持・株式継続保有など)を満たさなければ、猶予が取り消される可能性があります。
暗号資産売却が直接取消事由になるわけではありませんが、
- 売却益を配当で外部流出
- 事業規模が実質縮小
- 会社の性質が資産管理型へ変質
と評価される場合、制度趣旨との整合性が問われるリスクがあります。
形式要件を満たしていても、「実質的に事業継続と言えるか」が重要になります。
3.株価評価への波及
暗号資産を売却すると、現金に変わります。
しかし含み益課税後の純資産は減少します。
問題は、売却タイミングと評価基準時点です。
承継直後に売却すれば、
・承継時評価は高い暗号資産価値ベース
・売却後は税引後純資産ベース
というズレが生じます。
将来的に猶予取消や再評価が発生する場合、評価差異がリスクになる可能性があります。
4.配当・役員報酬設計のリスク
売却益を後継者個人へ移す場合、配当課税や役員報酬課税が発生します。
法人段階での法人税
↓
個人段階での所得税
という二段階課税構造になります。
売却益をそのまま個人に移転する設計は、想定以上の税コストを生むことがあります。
5.価格変動リスクとの時間軸問題
暗号資産の最大の特徴はボラティリティです。
承継後すぐに売却できれば問題は限定的ですが、価格が急落した場合、
- 予定していた売却益が縮小
- 法人税見込みと実現額の乖離
- キャッシュフロー計画の破綻
が生じます。
承継は長期設計、暗号資産は短期変動。この時間軸のズレが最大のリスクです。
6.実務的な対応策
承継後売却を前提とする場合、次の点が重要になります。
- 段階的売却(価格平準化)
- 欠損金とのタイミング調整
- 配当ではなく内部留保活用
- 事業との分離(持株会社設計)
特に、売却=即分配という発想は避けるべきです。
法人内部での再投資・資本政策設計を前提に考える必要があります。
結論
承継後に暗号資産を売却すること自体は可能です。
しかし、それは単なる資産処分ではなく、
- 法人税の集中
- 承継税制継続リスク
- 二重課税構造
- 価格変動による資金計画リスク
を伴います。
暗号資産は流動性が高いがゆえに、「すぐ売ればいい」という発想になりがちです。
しかし承継設計の中では、売却は最も慎重に扱うべき局面です。
重要なのは、承継と売却を別のイベントとして捉え、時間軸を分けて設計することです。
暗号資産は承継スキームに組み込めます。
しかし出口まで設計して初めて、リスクは管理可能になります。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年2月27日
「ポジション〉米投資家、ビットコイン離れ」

