成年後見制度を利用したことを理由に、仕事を失う。
そのような規定が、長年にわたり法律の中に存在していました。
2026年2月18日、最高裁大法廷は旧警備業法の欠格条項について、憲法に違反するとの判断を示しました。成年後見制度の利用者の就業制限をめぐり、最高裁が違憲判断を示したのは初めてです。
本稿では、判決のポイントと成年後見制度の現状、そして今後の制度設計の方向性について整理します。
旧警備業法の「欠格条項」とは何だったのか
旧警備業法は1982年改正により、禁治産者や準禁治産者を警備員の欠格事由に加えました。
その後、2000年に成年後見制度が導入されても、制度利用者は警備業に就くことができない状態が続きました。つまり、
・後見
・保佐
・補助
いずれかの類型であっても、制度を利用すれば一律に警備業から排除される仕組みでした。
2019年の法改正により、約180の法律に残っていた欠格条項は一括削除されましたが、それまでの約40年間、制度利用を理由に離職を余儀なくされた人が存在していました。
最高裁の違憲判断のポイント
最高裁大法廷(裁判官15人中9人の多数意見)は、当該欠格条項について以下の点を指摘しました。
① 法の下の平等(憲法14条)違反
障害の有無や後見制度の利用を理由として、一律に就業を排除することは合理性を欠くと判断しました。
② 職業選択の自由(憲法22条)違反
警備業務に必要な能力を備えている人まで一律に排除することは、過度な制約であるとしました。
多数意見は、障害者差別の禁止や社会参加の促進という価値観が社会に確立してきたことを明記しました。2014年に日本が批准した国連の障害者権利条約も、その背景事情として挙げられています。
一方で、国会が条項の改廃を怠ったとは言えないとして、国家賠償責任は否定しました。ここは下級審との大きな違いです。
成年後見制度の仕組みと現状
成年後見制度は、判断能力が十分でない人を法的に支援する制度です。2000年に、従来の禁治産・準禁治産制度に代わって導入されました。
類型は以下の3つです。
・判断能力を欠く場合の「後見」
・著しく不十分な場合の「保佐」
・不十分な場合の「補助」
家庭裁判所の審判により開始され、弁護士や司法書士などの専門職が後見人等に選任されることが多いのが実務の実態です。
2022年時点で認知症高齢者は約443万人と推計されていますが、成年後見制度の利用者は2024年末で約25万人にとどまります。
「権利が過剰に制約されるのではないか」という懸念が、利用をためらわせる一因とされています。
制度改革の方向性
法制審議会は2026年2月、成年後見制度の見直しに関する要綱を取りまとめました。
主な方向性は、
・3類型を「補助」に一本化
・利用を途中で終了できる仕組みの導入
です。
これまでの制度は、一度開始すると原則として継続する仕組みであり、「必要な期間だけ利用する」という発想が弱い構造でした。
今回の最高裁判決は、成年後見制度を利用することが、社会参加の妨げになってはならないというメッセージを明確に示したといえます。
今回の判決が示す本質的な問い
この問題の本質は、「保護」と「自己決定」のバランスにあります。
成年後見制度は本来、本人の自己決定を尊重しつつ、必要な範囲で支援する制度です。しかし実際には、制度利用そのものが社会的排除につながる構造を生んでいました。
一律排除という手法は、行政実務としては分かりやすいものの、個別能力を無視するという重大な副作用を持ちます。
今後問われるのは、
・能力に応じた個別判断
・合理的配慮の具体化
・差別禁止の実質化
といった観点です。
結論
旧警備業法の欠格条項に対する違憲判断は、単なる一つの法令の問題にとどまりません。
成年後見制度を「使うと不利になる制度」にしてはならないという、憲法的価値の確認です。
制度は保護のために存在します。
その制度が本人の社会参加を妨げるのであれば、本末転倒です。
今回の判決は、成年後見制度の再設計と、障害のある人の就労をめぐる法制度全体の在り方に、静かではありますが、重い問いを投げかけています。
参考
・日本経済新聞 2026年2月19日朝刊「成年後見利用で失職の旧警備業法、就業認めぬ規定『違憲』」
・日本経済新聞 2026年2月19日朝刊「成年後見制度 本人に代わり財産管理」
・最高裁判所大法廷判決(2026年2月18日)
・内閣府「高齢社会白書」
・法制審議会 成年後見制度見直し要綱(2026年2月)

