社長や役員にとって、役員退職金は老後資金の中核をなす重要な資金です。一方、新NISAは運用中の非課税制度として注目されがちですが、本当の価値が問われるのは「取り崩す段階」、いわゆる出口戦略にあります。
本稿では、役員退職金の受け取り方を整理したうえで、新NISAをどのように組み合わせ、老後の資金計画を安定させるかについて考えます。
役員退職金の基本的な性格
役員退職金は、長年の役員在任に対する報酬の後払いという性格を持ちます。税務上は退職所得として扱われ、退職所得控除や2分の1課税といった大きな優遇措置があります。
そのため、適切に設計すれば、給与や配当で受け取るよりも税負担を抑えられるケースが多くなります。
ただし、役員退職金は「一時に多額の資金が動く」という特徴も持っています。金額や受取時期を誤ると、税務上の問題だけでなく、生活設計にも影響を及ぼします。
役員退職金の受け取り方と注意点
役員退職金は原則として一時金で支給されます。
一時金で受け取る場合、退職所得控除を最大限活用できる一方、受け取った後の資金管理は自己責任となります。
退職後すぐに大きな支出が予定されていない場合、まとまった現金を長期間保有することになりますが、インフレ環境下では現金の実質価値が目減りするリスクがあります。
また、退職後の医療費や生活費は長期にわたるため、一時金をどのようなペースで取り崩すかが重要になります。
退職後に生じる「資金の谷」
多くの社長が見落としがちなのが、退職後の資金の流れです。
役員退職金は受け取った瞬間には大きな安心感がありますが、その後は年金開始までの期間、継続的な収入が乏しくなることがあります。
公的年金の支給開始までの生活費、突発的な医療費、住居関連費用などを考慮すると、「一時金+年金」だけでは資金の偏りが生じやすくなります。
この偏りを調整する役割として、新NISAが重要になります。
新NISAの出口戦略という考え方
新NISAは、非課税で運用できる制度ですが、出口戦略を考えずに積み上げると、使いどころを失いかねません。
出口戦略とは、「いつ・いくら・どの目的で取り崩すか」をあらかじめ想定することです。
役員退職金を一時金で受け取る場合、新NISAはその補完的な資金として活用できます。
たとえば、退職金は生活の基盤資金として確保し、新NISAは年金開始までのつなぎ資金や、インフレ対策として段階的に取り崩す設計が考えられます。
役員退職金と新NISAの役割分担
役員退職金は「確定した老後資金」、新NISAは「調整可能な資産」と位置づけると整理しやすくなります。
退職金は税制優遇を活かして一時金で確保し、新NISAは市場環境や生活状況に応じて柔軟に取り崩します。
この役割分担により、退職直後に大きな資金を動かす必要がなくなり、心理的な安定にもつながります。
また、新NISAで運用を続ける部分を残すことで、長寿リスクにも備えることができます。
インフレ時代の取り崩し戦略
インフレが続く環境では、「いくら持っているか」よりも「どう使うか」が重要になります。
退職金をすべて現金で保有すると、実質的な購買力は年々低下します。
新NISAは、退職後も運用を続けながら、必要な分だけ取り崩すことが可能です。
定額で取り崩すのか、必要な時に必要な額を取り崩すのかといった設計によって、老後資金の持続性は大きく変わります。
結論
役員退職金の受け取り方と新NISAの出口戦略は、切り離して考えるべきものではありません。
役員退職金は老後資金の土台として確保し、新NISAはその上で資金の流れを調整する役割を担います。
退職時点の税金だけで判断するのではなく、退職後の生活全体を見据えた設計が重要です。
制度を組み合わせ、受け取り方と使い方の両面から考えることが、社長・役員にとっての現実的な老後資金戦略といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「新NISA、2年目は7%増の12兆円 資産形成、インフレで拡大」(2025年12月30日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
