年金繰下げを選ばない方がよいケース整理 「増える」だけで判断しないためのチェックポイント

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公的年金の繰下げ受給は、将来受け取る年金額が増える制度として注目されています。
その一方で、「繰下げ=得」「できるだけ遅らせた方がよい」といったイメージが先行し、個々の状況を十分に考えないまま選択してしまうケースも見受けられます。

年金繰下げは万能な制度ではありません。
状況によっては、繰下げを選ばない方が老後の安心につながる場合もあります。
本稿では、年金繰下げを選ばない方がよい代表的なケースを整理します。

ケース① 生活資金に余裕がない場合

年金繰下げの最大の前提は、「繰下げ期間の生活費を自力で賄えること」です。
65歳以降の収入を公的年金に大きく依存している場合、繰下げを選ぶことで生活が不安定になる可能性があります。

預貯金や確定拠出年金(DC)を取り崩しながら生活する余裕がない場合、
将来の年金額を増やすために、現在の生活の安定を犠牲にすることになります。
このような場合は、繰下げを選ばず、65歳から受給を開始する方が現実的です。

ケース② DCや貯蓄を急速に取り崩す必要がある場合

年金繰下げとDCを組み合わせる設計は有効ですが、
繰下げを続けるためにDCや預貯金を想定以上のペースで取り崩している場合は注意が必要です。

本来、DCは老後全体を支える資金です。
繰下げ期間にDCを過度に使うと、
「将来の年金を増やす代わりに、他の老後資金を前倒しで消費している」
状態になりかねません。

資産全体の寿命を縮めてまで繰下げを続ける必要があるかは、慎重に考えるべきです。

ケース③ 健康状態や将来への不安が大きい場合

年金繰下げは、「将来、長く年金を受け取れる」という前提のもとで効果が高まります。
しかし、健康状態に不安がある場合や、医療・介護費の増加が見込まれる場合は、繰下げのメリットを十分に享受できない可能性があります。

年金は「受け取って初めて意味のある収入」です。
受給開始を遅らせることで、必要な時期に使えないリスクがある場合は、
早めに受け取りを開始し、生活の安定を優先する考え方も合理的です。

ケース④ 働き続ける前提が崩れやすい場合

年金繰下げを選ぶ人の多くは、「しばらくは働き続ける」「収入がある」という前提を置いています。
しかし、60代後半以降は、働き方や収入が急に変わることも珍しくありません。

・想定していた再雇用が続かなかった
・体力的に働くのが難しくなった
・収入が大きく減少した

このような変化が起こりやすい状況では、繰下げを前提とした資金計画自体が不安定になります。
働くことを前提にしないと成り立たない繰下げは、慎重に判断する必要があります。

ケース⑤ 税制上のメリットが思ったほど大きくない場合

年金繰下げによって年金額が増えると、
将来の課税所得が増え、税負担や社会保険料負担が重くなるケースもあります。

他に年金収入や不動産収入、金融所得がある場合、
繰下げによる「額面の増加」が、そのまま手取りの増加につながらないこともあります。

繰下げによる増額分と、将来の税・保険料負担を比較した結果、
メリットが限定的であれば、無理に繰下げを選ぶ必要はありません。

ケース⑥ 心理的な安心感を損なう場合

年金繰下げは、資産を取り崩す期間が続くため、
「お金が減っていくこと」に強い不安を感じる人もいます。

数字上は合理的でも、
・支出を過度に抑えてしまう
・旅行や趣味を我慢してしまう
・常に資産残高を気にしてしまう

といった状態になるのであれば、繰下げは生活の質を下げる結果になりかねません。
老後資金設計において、心理的な安心感は軽視できない要素です。

ケース⑦ 「増やすこと」が目的になっている場合

年金繰下げを選ぶ理由が、
「とにかく年金額を最大化したい」
「制度上、得だから」
という発想だけになっている場合も注意が必要です。

老後資金の目的は、資産額を最大にすることではなく、
必要なときに、必要なお金を、安心して使えることです。
目的と手段が入れ替わっている場合、繰下げは再検討すべき選択になります。

繰下げを選ばないことも「正しい選択」

年金繰下げを選ばないことは、消極的な判断ではありません。
65歳から受給を開始することで、
・安定した収入を早く確保でき
・資産の取り崩しペースを抑え
・生活設計をシンプルにできる

というメリットがあります。

制度を使わないことも含めて、自分に合った選択をすることが重要です。

おわりに

年金繰下げは、条件が合えば有効な制度ですが、すべての人に向いているわけではありません。
生活資金、健康状態、働き方、税制、そして心理的な安心感まで含めて判断する必要があります。

「繰下げしない」という選択も、老後資金設計における立派な結論です。
制度の損得だけでなく、自分の生活にとって何が最適かという視点で、年金との向き合い方を考えることが大切です。


参考

・日本経済新聞「確定拠出年金(DC)の制度拡充 老後資金、企業型でも備え」
・厚生労働省 年金制度に関する公表資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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