106万円の壁、130万円の壁は、現役世代の「働き方調整」の文脈で語られることが多い制度です。
しかし、年金受給が近づく、あるいは受給が始まると、この二つの壁はまったく違う意味を持ち始めます。
それまで意識していた
「扶養でいられるか」
「手取りが減らないか」
という視点だけでは、判断を誤りやすくなるからです。
本記事では、
年金受給前と受給後で、年収の壁の意味がどう変わるのか
を段階別に整理していきます。
年金受給前:壁は「選択を迫る境界線」
年金受給前、特に50代後半から60歳前後は、
年収の壁がもっとも強く意識される時期です。
この段階では、
・まだ年金収入がない
・給与が主な収入源
・配偶者の扶養制度が使える
という条件が重なり、
106万円・130万円が「越えるか避けるか」の分岐点 になります。
この時期に重要なのは、
「一時的な手取り」ではなく
「どの制度に乗るか」
を選ぶ意識です。
年金受給前の106万円の壁の意味
年金受給前に106万円を超えることは、
社会保険に入るかどうかの選択 を意味します。
社会保険に加入すれば、
・保険料負担は増える
・手取りは一時的に減る
一方で、
・厚生年金の加入期間が延びる
・将来の年金額が増える
・病気やけがへの保障が厚くなる
という「将来への効果」があります。
受給前であれば、
この上積み効果をまだ享受できる時間が残っています。
そのため、106万円の壁は
「超えてもよい壁」になり得る のです。
年金受給前の130万円の壁の意味
年金受給前に130万円を超える場合、
問題になるのは「その先の制度」です。
・106万円の要件を満たす
→ 勤務先の社会保険に加入
・満たさない
→ 国民年金・国民健康保険に加入
後者の場合、
・保険料は発生する
・年金額はほとんど増えない
・保障も大きく変わらない
という状態になりやすく、
年金受給前では最も避けたいパターン になります。
今回の130万円の壁の新方式は、
まさにこの事態を避けるための調整策といえます。
年金受給後:壁は「意味を失い始める」
年金受給が始まると、
年収の壁の意味は大きく変わります。
理由は、
扶養判定に使える前提が崩れるから です。
年金収入は、
・給与収入ではない
・130万円の新方式の対象外
となるため、
「給与収入のみで扶養に入る」
という考え方が成立しにくくなります。
この時点で、
130万円の壁は「管理すべき数字」ではなくなります。
年金受給後に重くなる別の調整
年金受給後は、
年収の壁の代わりに、別の調整が前面に出てきます。
・在職老齢年金
・年金と給与の合算
・税金と社会保険料のバランス
これらは、
「扶養でいるかどうか」ではなく、
収入全体でどう調整されるか
という問題です。
この段階では、
130万円を超えないように働く、
という発想そのものが現実的でなくなることもあります。
年金受給後の106万円の壁の見え方
年金受給後でも、
条件を満たせば社会保険に加入するケースはあります。
ただし、
・加入期間が短い
・年金上積み効果が限定的
となるため、
加入の意味は「保障重視」へと変化 します。
病気やけがのリスクをどう考えるか。
ここが、受給後の判断軸になります。
年金受給前後で変わる判断の軸
整理すると、壁の意味は次のように変わります。
年金受給前
→ 壁は「制度選択の分岐点」
年金受給後
→ 壁は「数字上の目安」に過ぎない
受給前は、
どの制度に入るかで将来が変わります。
受給後は、
どの制度でも生活が成り立つかが問われます。
結論
年収の壁は、年齢と立場によって意味が変わります。
年金受給前は、
壁を「避けるか」「越えるか」で、
将来の年金と保障が変わります。
年金受給後は、
壁に縛られるよりも、
年金・給与・社会保険を一体で考えることが重要になります。
数字を守る働き方から、
生活を守る働き方へ。
年金が見えてきた今こそ、
年収の壁を「恐れる対象」から
「理解して使い分ける基準」に変えていく時期です。
参考
・日本経済新聞
「<ニュースが分かる>扶養内パート 残業しやすく」
「手取り減、保障も増えず」
・厚生労働省 社会保険制度に関する公表資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
