観光地を訪れると、宿泊料金とは別に「宿泊税」が加算されることがあります。これまで日本では、1泊あたり100円や200円といった定額制が一般的でした。
しかし近年、この宿泊税のあり方が大きく変わり始めています。宿泊料金に一定割合をかける「定率制」を導入・検討する自治体が相次いでいるのです。
宿泊税は単なる増税なのか、それとも観光の質を高めるための政策ツールなのか。本稿では、制度の仕組みと実務、そして今後の方向性を整理します。
宿泊税とは何か
宿泊税は、地方自治体が条例によって導入できる「法定外目的税」です。
観光振興やインフラ整備など、使途を明確に定めたうえで課税される点が特徴です。住民ではなく観光客が主な負担者となるため、自治体にとっては観光政策と財源確保を結びつけやすい税制といえます。
定額制と定率制の違い
従来の定額制は、宿泊料金にかかわらず一定額を課税します。事務処理が比較的簡単で、宿泊事業者の負担も読みやすい制度です。
一方、定率制は宿泊料金に一定の税率をかけて税額を算出します。宿泊価格が上がれば税収も増えるため、インフレや高級化が進む観光地では実態に合った税収確保が可能になります。
定率制が注目される背景
定率制が再評価されている背景には、宿泊料金の上昇があります。
高級ホテルや外資系リゾートの進出、インバウンド需要の回復により、宿泊価格のレンジが大きく広がりました。
こうした環境下では、定額制では「高額宿泊者ほど税負担が軽くなる」という逆進性が生じます。定率制は、宿泊者の負担能力に応じた応能負担を実現しやすい仕組みです。
東京都の制度見直し
東京都は、現行の定額制(100~200円)を廃し、宿泊料金の3%を課税する定率制へ移行する方針を示しています。民泊も対象とし、2027年度の導入を目指しています。
試算では、宿泊税収は年間約69億円から約190億円へと大幅に増加する見込みです。宿泊価格の変動に柔軟に対応できる点が評価されています。
先行事例:倶知安町
国内でいち早く定率制を導入したのが北海道倶知安町です。
外資系宿泊施設やコンドミニアムが多く、定率制に慣れた事業者が多かったことが導入を後押ししました。
税収は観光インフラの充実に使われ、無料循環バスの運行やロードヒーティングの維持など、観光の質向上に直結しています。
事業者側の実務負担
定率制の課題として指摘されるのが、事務負担の増加です。
宿泊料と食事代などの非課税部分を明確に区分する必要があり、料金設定や会計処理が複雑になります。
また、旅行者にとって料金が分かりにくくなるのではないかという懸念も、事業者の慎重姿勢につながっています。
定額制を強化する動き:京都市
定率制ではなく、定額制を細分化して対応する自治体もあります。
京都市は高額宿泊者への課税を強化し、宿泊料金に応じて最大1万円まで税額を引き上げます。
オーバーツーリズム対策として、価格シグナルを通じた需要調整を図る狙いがあります。
海外における宿泊税の位置づけ
海外では宿泊税は「観光税」の一部として広く定着しています。
米ラスベガスでは地域ごとに税率が設定され、欧州都市ではホテルの格付けに応じた課税が一般的です。
ベネチアでは日帰り客にも課税し、混雑抑制と秩序維持に活用しています。
税収の「使い方」が観光の質を決める
注目すべきは、税収を観光従業員の福利厚生や住環境改善に使う海外事例です。
従業員の満足度が高まれば、結果としてサービスの質が向上し、観光地全体の価値が高まります。
宿泊税は、単なる財源ではなく、地域の魅力を循環的に高める装置として設計される必要があります。
結論
宿泊税の定率制は、増税か否かという二項対立では語れません。
問われているのは、税を通じてどのような観光を実現したいのかという自治体の姿勢です。
量から質へ。宿泊税は、観光政策の成熟度を映す鏡になりつつあります。
参考
・日本経済新聞「宿泊税に『定率制』台頭」2026年1月19日朝刊
・総務省 地方税制度に関する資料
・日本交通公社 観光税制に関する調査研究
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

