家族信託ってなに?──認知症・高齢期の財産管理入門

税理士
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■ 1.「もしものとき」に備えて、財産を守るしくみ

高齢化が進む今、「親が認知症になったらお金の管理はどうなるの?」という相談が急増しています。
実は、認知症になると銀行口座や不動産が凍結される可能性があることをご存じですか?

成年後見制度を使う方法もありますが、
手続きが複雑で費用がかかり、自由度が低いのが現実。

そんな中で注目されているのが、

💬 「家族の信頼で財産を託す」=家族信託(民事信託)です。


■ 2.家族信託のしくみをかんたんに言うと?

家族信託とは、

「信頼できる家族に財産の管理・運用を任せる制度」です。

法律上は、

  • 財産を託す人(=委託者)
  • 管理をする人(=受託者)
  • 最終的に財産をもらう人(=受益者)
    の3者が登場します。

たとえば、次のようなケース。

👵 母(委託者)が、自宅や預金を息子(受託者)に託す。
息子は母の生活費を管理し、必要に応じて不動産を処分。
亡くなった後は、残りの財産を孫(受益者)へ渡す。

これが家族信託の基本の流れです。


■ 3.家族信託の「ここがすごい!」3つのポイント

🟢 ① 認知症になっても口座が凍結されない

信託契約をしておけば、受託者(家族)が財産を管理できるため、
親が認知症になっても預金を引き出したり不動産を売却したりできます。

🟢 ② 成年後見よりも自由度が高い

成年後見制度では、家庭裁判所の許可が必要な場面が多く、柔軟な資産運用が難しいですが、
家族信託では家族が契約で自由にルールを決められるのが特徴です。

🟢 ③ 二次相続にも備えられる

「親の財産を子が管理し、最終的に孫へ渡す」など、
次の世代への承継まで一気に設計できるのも強みです。


■ 4.こんな方に向いています

状況家族信託が役立つ理由
親が高齢で、将来の認知症が心配銀行凍結リスクを防げる
不動産の管理を家族に任せたい受託者が売却・修繕などを実行できる
夫婦のどちらかが先に認知症になると困る共同名義の財産もスムーズに管理できる
障害のある子に将来資産を残したい生活のための財産を“信託”で確保できる

■ 5.家族信託と成年後見のちがい

比較項目家族信託成年後見制度
管理者家族など信頼できる人裁判所が選任(専門職も多い)
監督者原則不要家庭裁判所が監督
柔軟性高い(契約で自由設計)低い(法令で制限あり)
手続き契約書を作成して登記家裁申立て・審判が必要
費用契約書作成・登記で数万円〜後見人報酬が年数十万円
主な利用目的財産管理・承継設計生活保護・身上監護中心

💬 どちらが良いかではなく、状況に応じて使い分けるのがポイントです。


■ 6.信託財産にできるもの・できないもの

信託できるもの信託できないもの
預金・現金年金受給権(公的年金)
不動産(土地・建物)医療保険・公的扶助など
株式・投資信託公共料金口座引落しの変更など(別手続き要)

家族信託では、「登記できる財産」や「管理目的が明確なもの」が中心です。


■ 7.実際の進め方

1️⃣ 家族で話し合う(目的と対象財産を決める)
2️⃣ 専門家に相談(司法書士・税理士・弁護士など)
3️⃣ 信託契約書を作成(公正証書にするのが安心)
4️⃣ 登記・口座開設(不動産や信託口座を設定)
5️⃣ 運用開始(受託者が管理スタート)

💡契約後も「信託口座」で入出金を分けておくと、透明性が高くトラブル防止になります。


■ 8.注意点と税金の扱い

  • 贈与税や相続税:通常の相続と同様、受益者が実際に利益を得た時点で課税。
  • 登記費用や契約書作成費:初期費用として数万円〜十数万円程度。
  • 定期的な報告書:トラブル防止のため、家族間で帳簿・通帳を共有。

税務上は「名義が変わっても、実質的な所有者(受益者)が誰か」で判断されます。


■ 9.まとめ:「家族信託」は“家族を守る契約”

観点内容
目的認知症リスクや将来の相続に備える
メリット家族で自由に設計・柔軟に管理できる
注意点税金・登記の扱いは専門家確認が必須
一番大事なこと信頼できる人を受託者に選ぶこと

💬 家族信託は、「お金を守る契約」ではなく、「家族を守る約束」。
信頼を“かたち”にして、安心な老後と円満な相続をつなぎます。


参考資料

  • 法務省「民事信託制度の概要」
  • 東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料」塩野入文雄講師(2025年5月8日)
  • 日本司法書士会連合会『家族信託の手引き』
  • 日本FP協会テキスト「相続・事業承継設計」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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