■“登記が終わった後”にやってくる現実
相続登記を済ませ、「名義変更完了」の書類が届くと、多くの方がこう感じます。
「これで手続きは終わった」
……でも、実はここからがスタートです。
固定資産税、維持費、老朽化――
相続不動産は、“持つ”だけで毎年お金が動く資産です。
つまり、「相続=資産の引き継ぎ」ではなく、
「相続=責任の引き継ぎ」でもあるのです。
■相続した家をどうする? 4つの選択肢
相続不動産の主な選択肢は次の4つです。
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| ① 売却 | 現金化しやすい/維持費不要 | 思い出の喪失/譲渡所得税発生 |
| ② 賃貸 | 安定収入/空き家対策になる | 管理手間・修繕コスト/空室リスク |
| ③ 共有 | 家族で所有継続できる | 売却・修繕の決定に全員の同意必要 |
| ④ リフォーム・建替 | 思い出を残しつつ活用 | 費用負担・資産価値次第では非効率 |
💡FPポイント:
どれが正解かは「家族構成×地域の市場×税金」で変わります。
感情だけでなく、数字と将来像で判断することが大切です。
■① 売却:もっとも多い“現実的な選択”
近年の相続実務では、売却が過半数を占めます。
相続税や介護資金、子世帯との距離など、理由はさまざま。
✅ 売却の流れ
① 登記完了(相続人の名義へ)
② 不動産会社に査定依頼(2〜3社比較)
③ 媒介契約締結
④ 売買契約・決済・引渡
⑤ 譲渡所得税の申告
💰 譲渡所得税のポイント
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費+譲渡費用)
ただし、「相続空き家の3,000万円特別控除」が使えるケースがあります。
- 被相続人が一人暮らしだった家を売却
- 昭和56年5月31日以前に建築
- 相続から3年以内に売却
👉 これにより、最大3,000万円まで非課税にできます。
🧩税理士アドバイス:
特例を使うには「耐震リフォーム」または「解体」が条件になる場合も。
売る前に税理士へ相談を。
■② 賃貸:収益を生む“生かす相続”
立地が良ければ、賃貸活用も有力な選択肢。
定期収入を得ながら、資産を保有し続ける戦略です。
💰 税務上の利点
- 建物部分の減価償却を経費化できる
- 固定資産税・修繕費も経費に計上可能
- 相続税評価額が下がる(貸家評価減)
| 活用形態 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| アパート経営 | 節税・安定収入 | 建築費・空室リスク |
| 定期借家 | 安定契約 | 契約更新の柔軟性が低い |
| 駐車場・倉庫貸し | 管理が楽 | 利回りは低い傾向 |
🧩FPアドバイス:
賃貸経営を始めるなら、「不動産所得の青色申告」の準備を。
青色申告特別控除(最大65万円)で節税効果も見込めます。
■③ 共有:家族で守る? それとも将来の火種?
「兄弟で分けるのは公平」――
そう思って共有登記にするケースは多いですが、トラブルの温床になることも。
⚠️ 共有のリスク
- 売却・修繕・賃貸など、全員の同意が必要
- 相続が続くと、共有者が雪だるま式に増える
- 結果、管理不能になり「共有不動産の分割請求訴訟」に発展することも
🧾税理士の実感:
「とりあえず共有で」よりも、将来の活用を前提に分け方を設計する方が良策です。
不動産が複数あるなら、「家族Aが自宅、家族Bが貸地」という現物分割が理想的。
■④ リフォーム・建替:家族の思いを未来へ
「両親の家を壊したくない」
「思い出の場所を残したい」
そんな想いから、リフォームや建替を選ぶ方もいます。
ただし、費用対効果の見極めが重要です。
🛠 目安費用(延床30坪の場合)
| 内容 | 費用目安 |
|---|---|
| フルリフォーム | 約1,000〜1,500万円 |
| 建替 | 約2,000〜3,000万円 |
💡FP視点での判断基準
- 子世代が将来住む予定があるか?
- 固定資産税・維持費を払える余裕があるか?
- 築年数・耐震性が長期的に保てるか?
思い出を残すことも、立派な相続。
ただし、“維持できる相続”であることが前提です。
■税金の観点から見た4択比較
| 選択肢 | 税金の主なポイント |
|---|---|
| 売却 | 譲渡所得税が発生(特例あり) |
| 賃貸 | 不動産所得として所得税が発生/減価償却可 |
| 共有 | 相続税評価が複雑化/将来再相続で二重計算リスク |
| リフォーム | 固定資産税・相続評価の増減に影響 |
■FP・税理士が勧める「相続後の3ステップ戦略」
1️⃣ 「現状把握」:財産・維持費・地域相場を調べる
→ 固定資産税評価証明書、管理費、水道光熱費を一覧化。
2️⃣ 「シミュレーション」:5年後・10年後の収支を計算
→ 売却・賃貸・保有のシナリオ別で試算。
3️⃣ 「合意形成」:家族で“想いと現実”を話し合う
→ FP・税理士・不動産業者が同席する「家族会議」も有効。
■まとめ:相続した家を「負動産」にしないために
相続した不動産は、放置すると「負動産」になります。
けれど、整理し活用すれば、“家族資産”として次世代に残せる。
その分かれ道は、「登記の後、どう動くか」。
相続の終わりこそ、家族の資産形成の始まりです。
📚参考:
- 国税庁「相続した空き家の3,000万円特別控除」
- 総務省「空き家実態調査」
- 法務省「相続登記の義務化」
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」
✍️あとがき(税理士・FPコメント)
相続とは、終わりではなく“資産の再スタート”です。
家をどう使うかは、家族の生き方を映す鏡。
売る・貸す・残す、どの道を選ぶにしても、
「感情」と「数字」を両輪に、冷静に考えることが大切です。そして最も大事なのは、家族で話し合う時間そのもの。
それこそが“心の相続”の続きなのです。という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

