実務手続き編⑤:「不動産相続後の活用戦略」——売る?貸す?残す? “家をどう活かすか”をFP・税理士が徹底比較

税理士
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■“登記が終わった後”にやってくる現実

相続登記を済ませ、「名義変更完了」の書類が届くと、多くの方がこう感じます。

「これで手続きは終わった」

……でも、実はここからがスタートです。
固定資産税、維持費、老朽化――
相続不動産は、“持つ”だけで毎年お金が動く資産です。

つまり、「相続=資産の引き継ぎ」ではなく、
「相続=責任の引き継ぎ」でもあるのです。


■相続した家をどうする? 4つの選択肢

相続不動産の主な選択肢は次の4つです。

選択肢メリットデメリット
① 売却現金化しやすい/維持費不要思い出の喪失/譲渡所得税発生
② 賃貸安定収入/空き家対策になる管理手間・修繕コスト/空室リスク
③ 共有家族で所有継続できる売却・修繕の決定に全員の同意必要
④ リフォーム・建替思い出を残しつつ活用費用負担・資産価値次第では非効率

💡FPポイント:
どれが正解かは「家族構成×地域の市場×税金」で変わります。
感情だけでなく、数字と将来像で判断することが大切です。


■① 売却:もっとも多い“現実的な選択”

近年の相続実務では、売却が過半数を占めます。
相続税や介護資金、子世帯との距離など、理由はさまざま。

✅ 売却の流れ

① 登記完了(相続人の名義へ)
② 不動産会社に査定依頼(2〜3社比較)
③ 媒介契約締結
④ 売買契約・決済・引渡
⑤ 譲渡所得税の申告

💰 譲渡所得税のポイント

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費+譲渡費用)

ただし、「相続空き家の3,000万円特別控除」が使えるケースがあります。

  • 被相続人が一人暮らしだった家を売却
  • 昭和56年5月31日以前に建築
  • 相続から3年以内に売却

👉 これにより、最大3,000万円まで非課税にできます。

🧩税理士アドバイス:
特例を使うには「耐震リフォーム」または「解体」が条件になる場合も。
売る前に税理士へ相談を。


■② 賃貸:収益を生む“生かす相続”

立地が良ければ、賃貸活用も有力な選択肢。
定期収入を得ながら、資産を保有し続ける戦略です。

💰 税務上の利点

  • 建物部分の減価償却を経費化できる
  • 固定資産税・修繕費も経費に計上可能
  • 相続税評価額が下がる(貸家評価減)
活用形態メリット注意点
アパート経営節税・安定収入建築費・空室リスク
定期借家安定契約契約更新の柔軟性が低い
駐車場・倉庫貸し管理が楽利回りは低い傾向

🧩FPアドバイス:
賃貸経営を始めるなら、「不動産所得の青色申告」の準備を。
青色申告特別控除(最大65万円)で節税効果も見込めます。


■③ 共有:家族で守る? それとも将来の火種?

「兄弟で分けるのは公平」――
そう思って共有登記にするケースは多いですが、トラブルの温床になることも。

⚠️ 共有のリスク

  • 売却・修繕・賃貸など、全員の同意が必要
  • 相続が続くと、共有者が雪だるま式に増える
  • 結果、管理不能になり「共有不動産の分割請求訴訟」に発展することも

🧾税理士の実感:
「とりあえず共有で」よりも、将来の活用を前提に分け方を設計する方が良策です。
不動産が複数あるなら、「家族Aが自宅、家族Bが貸地」という現物分割が理想的。


■④ リフォーム・建替:家族の思いを未来へ

「両親の家を壊したくない」
「思い出の場所を残したい」

そんな想いから、リフォームや建替を選ぶ方もいます。
ただし、費用対効果の見極めが重要です。

🛠 目安費用(延床30坪の場合)

内容費用目安
フルリフォーム約1,000〜1,500万円
建替約2,000〜3,000万円

💡FP視点での判断基準

  • 子世代が将来住む予定があるか?
  • 固定資産税・維持費を払える余裕があるか?
  • 築年数・耐震性が長期的に保てるか?

思い出を残すことも、立派な相続。
ただし、“維持できる相続”であることが前提です。


■税金の観点から見た4択比較

選択肢税金の主なポイント
売却譲渡所得税が発生(特例あり)
賃貸不動産所得として所得税が発生/減価償却可
共有相続税評価が複雑化/将来再相続で二重計算リスク
リフォーム固定資産税・相続評価の増減に影響

■FP・税理士が勧める「相続後の3ステップ戦略」

1️⃣ 「現状把握」:財産・維持費・地域相場を調べる
 → 固定資産税評価証明書、管理費、水道光熱費を一覧化。

2️⃣ 「シミュレーション」:5年後・10年後の収支を計算
 → 売却・賃貸・保有のシナリオ別で試算。

3️⃣ 「合意形成」:家族で“想いと現実”を話し合う
 → FP・税理士・不動産業者が同席する「家族会議」も有効。


■まとめ:相続した家を「負動産」にしないために

相続した不動産は、放置すると「負動産」になります。
けれど、整理し活用すれば、“家族資産”として次世代に残せる

その分かれ道は、「登記の後、どう動くか」。
相続の終わりこそ、家族の資産形成の始まりです。


📚参考:

  • 国税庁「相続した空き家の3,000万円特別控除」
  • 総務省「空き家実態調査」
  • 法務省「相続登記の義務化」
  • 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」

✍️あとがき(税理士・FPコメント)

相続とは、終わりではなく“資産の再スタート”です。
家をどう使うかは、家族の生き方を映す鏡。
売る・貸す・残す、どの道を選ぶにしても、
「感情」と「数字」を両輪に、冷静に考えることが大切です。

そして最も大事なのは、家族で話し合う時間そのもの。
それこそが“心の相続”の続きなのです。

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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