■「お尋ね」が来たとき、どうする?
相続税の申告を終えて数カ月後。
税務署から1通の封筒が届く——
「相続税の申告内容についてお尋ねします」
初めての方はドキッとします。
でも、落ち着いてください。
それは“即・税務調査”ではなく、軽い確認の通知であることが多いのです。
この段階での対応が、
「調査にならずに済むか」「呼び出しが入るか」を分けます。
■税務署が確認したいのは「3つのポイント」
相続税の調査は、“不正を暴く”ためではなく“確認する”ためのもの。
税務署が注目するのは次の3点です。
| ポイント | 確認したい内容 |
|---|---|
| ① 財産の計上漏れ | 現金・預金・名義預金・生命保険・未登記不動産など |
| ② 評価の妥当性 | 不動産の評価方法・特例適用の可否 |
| ③ 分割の実態 | 実際に遺産を分けたか・申告と一致しているか |
💡つまり、税務署の関心は「どれだけ正確に申告されているか」。
書類を整理して根拠を示せれば、それで十分対応可能です。
■“調査になりやすいケース”を知っておこう
税務署は申告内容やデータからリスク分析をしています。
次のようなケースでは、調査対象になりやすい傾向があります。
| 状況 | 理由 |
|---|---|
| 預金が多い家庭(2,000万円以上) | 名義預金や贈与履歴を確認したい |
| 現金の引き出しが多い | 生前贈与・現金保管の有無を確認 |
| 不動産評価が低め | 評価方法が正しいかチェック |
| 小規模宅地の特例を使っている | 要件(同居・事業用など)の実態を確認 |
| 生命保険・投資信託を多く保有 | 契約者・受取人の関係を確認 |
申告がきちんとしていても、税務署のデータ照合(マイナンバー・金融機関情報)により、確認対象になることは珍しくありません。
■“書類整理”が最強の防御
税務調査における最大の武器は、
正確で分かりやすい書類の整理です。
では、どんな資料をどう保管すればよいか?
実務で役立つ「相続書類フォルダ構成」を紹介します。
📁【相続書類整理フォルダ】おすすめ構成
相続関係書類フォルダ
│
├─① 身分関係書類(戸籍・遺言・協議書)
│ └ 相続関係説明図/遺産分割協議書/遺言書写し
│
├─② 財産評価書類(不動産・預金・株式)
│ └ 路線価図/残高証明書/評価明細/不動産登記簿
│
├─③ 特例・控除関係(小規模宅地・配偶者控除)
│ └ 居住実態資料/同居証明/配偶者控除計算書
│
├─④ 贈与・現金関連
│ └ 通帳コピー(過去5年分)/贈与契約書/ATM明細
│
├─⑤ 税務申告関係
│ └ 相続税申告書/別表/添付資料/納税証明書
│
└─⑥ メモ・補足
└ 専門家とのやりとりメモ/評価理由の説明文
💡これを1冊のバインダーにしておくだけで、
税務署からの質問に対し「はい、こちらです」と即答できます。
整理=信頼。税務署に「誠実に対応している」と伝わることが何より重要です。
■税務調査が入ったときの流れ
相続税の調査は、突然やってくるものではありません。
多くは、事前通知→資料確認→面談(または書面照会)の流れです。
① 通知(電話・書面):「相続税の確認をさせてください」
↓
② 日程調整:1~2週間後に実施
↓
③ 当日:税務署職員2名ほどが訪問(平均3〜4時間)
↓
④ 指摘事項があれば修正申告・追徴
🧭よくある質問:
「調査って家に来るんですか?」
→ はい、多くは自宅か税理士事務所で実施。
ただし最近はオンライン・書面照会で済むケースも増えています。
■FP・税理士の実務から:調査で慌てない3つの心得
1️⃣ 「嘘」をつかない。曖昧な場合は「確認してお答えします」。
税務署は“正直な対応”を重視します。記録があれば十分です。
2️⃣ “想定問答”を作っておく。
「この入金は?」「この名義預金は?」という質問には、
あらかじめ経緯をメモにしておくとスムーズ。
3️⃣ “自分の言葉”で説明できる整理を。
専門家任せではなく、
「このお金は母の介護費」「この家は同居で使用」と、
家族自身の言葉で説明できることが信頼につながります。
■税務署が“感心する”書類の作り方
税務署職員が最も評価するのは、整理・透明性・整合性。
よく「これは良い対応だった」と言われる例がこちらです。
| 評価が高い対応 | 理由 |
|---|---|
| すぐに書類を提示できる | 整理されている=誠実と判断される |
| 現金の使途メモがある | 説明の裏づけになる |
| 特例の根拠(同居・介護など)を写真や書類で補足 | 実態の証明になる |
| 税理士・家族の説明が一致 | 信頼性が高い |
■「調査が怖い」から「調査で納得される」へ
税務調査を「怖いイベント」と考える必要はありません。
むしろ――
「家族の記録を公的に確認してもらう時間」です。
税務調査で最も印象的なのは、
「ご家族が丁寧に財産を引き継いだんですね」と職員が言う瞬間。
その言葉に、故人への敬意と家族の努力が報われるのです。
📚参考:
- 国税庁「相続税の税務調査の概要」
- 日本税理士会連合会『税務調査対応マニュアル』
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」
🧭次回予告(実務手続き編④)
📂「相続登記の義務化と不動産の手続き完全ガイド」
——2024年から始まった“相続登記の義務化”を中心に、
登記の流れ・期限・必要書類・ペナルティ・名義整理の実例を詳しく解説します。
✍️あとがき(税理士・FPコメント)
税務調査を“避ける”より、“備える”。
その姿勢こそが、家族を守る最善の相続対策です。
きちんと整理された書類は、故人の人生の証であり、家族の誠実さの証明でもあります。相続の終わりは、家族の次のステージの始まり。
書類整理は、「家族の未来整理」でもあるのです。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
