外国人による土地取得をめぐる議論では、取得そのものを制限するかどうかに注目が集まりがちです。もっとも、政策手段は「禁止」や「許可制」だけではありません。
実際、2026年1月に政府がまとめた「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」では、外国人の土地所有等に関する情報の把握と公開、マンション取引や地下水採取の実態把握、土地取得等のルールの在り方の検討が掲げられており、まずは実態把握と制度設計の精緻化が前面に出ています。
そこで考えたいのが、「取得規制」ではなく「課税」や「負担調整」で対応する余地です。本稿では、安全保障や地域不安に対応する手法として、税制をどう位置づけるべきかを整理します。
取得規制と課税は何が違うのか
取得規制は、一定の主体による取得を事前に制限し、場合によっては禁止する手法です。安全保障上の懸念が強い地域では有力な方法ですが、対象設定を誤ると、財産権や経済活動の自由への制約が大きくなります。
これに対して課税は、取得自体を一律に禁じるのではなく、特定の取得や保有に追加的な負担を課すことで行動を調整する手法です。禁止よりも柔軟で、政策目的に応じた細かな設計がしやすいという特徴があります。
もっとも、課税であれば何でも許されるわけではありません。課税もまた、合理的な目的と公平な制度設計が必要です。外国人であることのみを理由にした重い負担は、内外人平等との関係で慎重な検討が求められます。日本は長く内外人平等原則を維持し、2021年の重要土地等調査法でも「取得」より「利用」の把握・規制を中心とする枠組みを採っています。
安全保障に税制はなじむのか
安全保障と税制は、一見すると距離があるように見えます。しかし、政策手段として考えると、一定の接点があります。
たとえば、防衛施設周辺や国境離島等で問題になるのは、単に誰が取得したかではなく、その土地がどのように使われるか、どのようなリスクを持つかという点です。現行法でも、重要施設周辺おおむね1000メートルや国境離島等を対象に、土地等の利用状況の調査や、機能阻害行為への勧告・命令が可能とされています。
この分野では、本来の中心手段はやはり利用規制です。危険な利用が想定されるなら、課税よりも直接的な規制の方が適しています。税は、安全保障リスクそのものを除去する万能の道具ではありません。
ただし、取得や保有の段階で追加的な情報申告義務や管理コスト負担を求める仕組みは、税や負担金と親和的です。安全保障の本丸は利用規制に置きつつ、その周辺でコスト負担の公平化を図る余地はあります。
税制が力を発揮するのは住宅政策や地域政策の場面
むしろ税制が本領を発揮するのは、住宅市場や地域管理の分野です。
外国人投資が都心高額物件など特定市場に集中する場合、取得禁止よりも、短期売買や低利用保有、投機的取得に対して追加的な負担を設ける方が、政策目的に合いやすいことがあります。これは外国人だけを狙い撃ちするのではなく、一定の取引類型や利用実態に応じて中立的に制度設計する方が、法原則との整合性も取りやすい考え方です。
また、土地取得への不安の根底には、誰が買うかよりも、放置・低利用・予測不能な開発への懸念があります。この点では、国土交通省の「国土の管理構想」が示すように、人口減少下で地域住民が将来の土地利用を話し合い、管理の方向性を定める考え方が重要です。土地の管理・利用のルールを明確にし、その維持のために必要な財政負担をどう分かち合うかという視点は、税制論と相性がよいといえます。
考えられる課税アプローチ
では、どのような制度設計が考えられるでしょうか。
一つは、国籍ではなく利用実態に着目する方法です。たとえば、長期間使われない土地や、地域計画と整合しない低利用資産に対して負担を重くする考え方です。これであれば、日本人か外国人かを問わず、問題のある保有形態に中立的に対応できます。
もう一つは、取得時より保有段階を重視する方法です。取得時に一律の追加負担を課すと、市場全体を冷やすおそれがありますが、保有段階で管理・届出・実態把握と連動した負担設計を行えば、政策目的に応じた調整がしやすくなります。
さらに、特定地域では税そのものより、届出、監視、管理義務、違反時の負担増を組み合わせた制度の方が現実的です。重要なのは、「外国人だから重くする」という単純な制度ではなく、「どのようなリスクや外部不経済があるか」に応じて設計することです。
制度設計の前提はデータ整備である
もっとも、こうした制度論は、実態把握なしには成り立ちません。
政府が進めるベース・レジストリ整備や、不動産関係ベース・レジストリ、不動産登記ベースレジストリの方向性は、所有・所在地・関連情報を制度横断で活用しやすくする基盤づくりです。デジタル庁はベース・レジストリを多数の手続で参照される基礎データベースと位置づけ、国土交通省も不動産関係ベース・レジストリの整備を進めています。こうした基盤があって初めて、取得や保有の実態、低利用や所有者不明化の兆候を把握し、合理的な制度設計が可能になります。
結局のところ、課税を論じる前に、誰が、どこで、どのように土地を保有・利用しているのかを把握する仕組みが不可欠です。この点で、いま政府が進めている情報基盤整備は、規制強化の前段階というだけでなく、税制設計の前提条件でもあります。
結論
外国人の土地取得をめぐる政策は、「規制するか、放置するか」の二択ではありません。
安全保障上の高リスク地域では、取得規制や利用規制が必要な場面があります。他方で、住宅市場や地域管理の問題に対しては、課税や負担調整の方が適した場面もあります。重要なのは、問題の性質に応じて手段を使い分けることです。
その際の基本は明確です。
外国人であること自体を理由に広く制限するのではなく、具体的なリスクや外部不経済を特定し、それに応じて制度を設計すること。
そして、その前提として、所有・利用の実態をデータに基づいて把握することです。
外国人土地取得をめぐる議論は、感情論に流れやすいテーマです。だからこそ、法原則、利用規制、地域参加、そして税制という複数の手段を冷静に組み合わせて考える必要があります。規制ではなく課税という視点は、そのための有力な補助線になるはずです。
参考
日本経済新聞「高市政権の外国人政策(下) 土地取得規制 まず実態把握」2026年3月18日
首相官邸「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」2026年1月23日
内閣府「重要土地等調査法」関連資料
国土交通省「国土の管理構想」2021年6月
デジタル庁「ベース・レジストリ」関連資料
国土交通省「不動産関係ベース・レジストリ整備の方向性」2023年5月
