共働き世帯の増加に伴い、子どもの急病への対応は多くの家庭にとって大きな課題となっています。保育園や学校に通う子どもは、感染症や発熱など突然の体調不良に見舞われることが少なくありません。その際、親が仕事を休むことが難しい場合に利用されるのが「病児保育」です。
しかし、日本では病児保育の利用経験がある保護者は約1割にとどまり、制度が十分に活用されているとは言い難い状況です。また、子どもの看病のための休暇制度である「子の看護休暇」も、欧州諸国と比較すると制度面・利用面の双方で遅れが指摘されています。
働く親と子育ての両立をどのように支えるべきか。本稿では、病児保育の現状と課題、そして海外制度との比較から、日本の制度の方向性を考えてみます。
病児保育制度の広がりと利用の実態
病児保育とは、病気の子どもを一時的に預かる保育サービスです。保育所などで体調が悪化した子どもを迎えまで預かる「体調不良児対応型」、急性期の子どもを預かる「病児対応型」、回復期の子どもを対象とする「病後児対応型」などがあります。
日本では1960年代に民間施設で始まり、1990年代の少子化対策「エンゼルプラン」により国の重点施策として位置づけられました。現在では全国で約4300カ所の施設があり、年間利用者は延べ100万人を超えています。
それにもかかわらず、保護者の利用経験は限定的です。ある調査では、子どもの病気への対応に困った経験がある保護者は約半数に上る一方、病児保育を利用したことがある人は約13%にとどまりました。
制度があるにもかかわらず、実際には十分活用されていないのが現状です。
利用が広がらない理由
病児保育の利用が広がらない背景には、いくつかの要因があります。
第一に、手続きの煩雑さです。多くの施設では事前登録が必要であり、既往歴やアレルギーなどの詳細な情報を登録する必要があります。また利用当日には医師の診察を受ける必要があり、急な発熱などの場合には手続きが負担となることがあります。
第二に、予約の取りにくさです。感染症が流行する時期には施設が満員になることが多く、キャンセル待ちになるケースも珍しくありません。自治体によっては、満室などを理由に多数の利用希望を断らざるを得ない状況も報告されています。
第三に、施設の地域格差です。調査によれば、一定水準の病児保育施設が存在しない自治体も少なくありません。都市部と地方の差も大きく、住む地域によって利用可能性が大きく変わります。
さらに、運営側の課題もあります。病児保育施設では当日のキャンセル率が高く、空きが出ても職員は配置しなければならないため、経営的には赤字になりやすい構造となっています。
欧州の制度との違い
日本の特徴は、病気の子どもを施設に預ける仕組みが中心となっている点です。
一方、欧州では「親が看病すること」を基本とし、そのための制度を整えています。代表的なのが有給の看護休暇です。
例えばスウェーデンでは、子どもの看病のために年間最大120日の休暇が認められています。給与の補償もあり、制度はアプリで簡単に申請できます。さらに祖父母などに休暇日数を譲ることも可能です。
ドイツでも子ども1人につき年間15日の看護休暇が認められており、公的健康保険加入者には給与の大部分が保障されます。
こうした制度は社会保険制度の一部として整備されており、子どもの看病は社会全体で支えるべきものという考え方が背景にあります。
日本の看護休暇制度の課題
日本でも2002年の育児・介護休業法改正により「子の看護休暇」が導入されました。現在は子ども1人につき年間5日、対象年齢は小学3年までです。
しかし、給与保障が法律上定められていないため、実際には取得しにくいケースが少なくありません。調査でも取得経験のある保護者は約14%にとどまっています。
制度上の問題だけでなく、職場の文化も影響しています。子どもの看病で休むことに対する心理的なハードルが高い職場もあり、制度があっても利用されないという状況が生じています。
企業の取り組みの広がり
一部の企業では独自の制度を導入し、従業員の子育てを支援する動きも見られます。
例えば、病児保育サービスの利用費用を補助する企業や、法定基準を上回る日数の看護休暇を有給で付与する企業があります。また米国では、緊急時に保育や介護の代替サービスを提供する「バックアップケア」という福利厚生制度も普及しています。
こうした制度は従業員の働きやすさを高めるだけでなく、人材の定着や企業の競争力の向上にもつながると考えられています。
結論
子どもの急病は、どの家庭でも起こりうる日常的な出来事です。しかし、現在の日本ではその負担が主に家庭、とりわけ親に集中している側面があります。
病児保育の拡充も重要ですが、それだけでは問題は解決しません。親が安心して休める制度や職場環境を整えることが不可欠です。
海外の制度を参考にしながら、看護休暇の拡充や所得補償の仕組みを社会保障制度の一部として検討することも一つの方向性でしょう。同時に、企業や職場文化の変化も求められます。
子どもの病気は誰にでも起こり得るものです。子どもの有無にかかわらず、誰もが必要なときに休める社会をつくることが、働く人と子育ての両立を支える基盤になるといえます。
参考
日本経済新聞
子が急病、働く親の苦悩なお(2026年3月17日)
病児保育制度の現状に関する記事
看護休暇制度に関する海外比較記事
