大相続時代に広がる相続税――「一部の富裕層の税」は過去のものに

FP
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相続税というと、かつては「資産家だけが関係する税金」という印象が強くありました。しかし近年、その前提は大きく揺らいでいます。
地価や株価の上昇、相続税の基礎控除縮小、そして少子化の進行が重なり、相続税の課税対象は着実に広がっています。相続税収は過去最高水準に達し、「大相続時代」と呼ばれる局面に入ったと言ってよい状況です。

相続税収はなぜ増え続けているのか

財務省の見通しでは、2025年度の相続税収(贈与税を含む)は約3.6兆円と、過去最高を更新する見込みです。2013年度と比べると約2.3倍に増えています。
この背景には、2015年の制度改正があります。基礎控除は「5000万円+法定相続人1人あたり1000万円」から、「3000万円+1人あたり600万円」へと大きく引き下げられました。この改正だけで、課税対象者は一気に増えました。

さらに、都市部を中心とした地価の上昇も影響しています。相続税評価の基準となる路線価は、ここ10年で大幅に上昇している地域が少なくありません。
加えて、株価の上昇により、金融資産を中心に相続財産全体の評価額が底上げされています。

「10人に1人」が相続税を払う時代

国税庁のデータによると、2023年度に相続税が課税された割合は約9.9%でした。亡くなった人のうち、およそ10人に1人が相続税の対象になっています。
2013年度は4.3%だったことを考えると、10年で倍以上に広がった計算です。

特に注目すべき点は、必ずしも「超富裕層」だけが対象ではないことです。
自宅兼収益不動産を所有し、相続人が配偶者と子1人というような、都市部では珍しくない家族構成でも、評価額次第では数千万円規模の相続税が発生するケースが現実になっています。

相続される財産の中身も変わった

相続財産の構成にも大きな変化があります。
1990年代初頭は、相続財産の約7割を土地が占め、金融資産は2割未満でした。しかし現在では、現預金や有価証券が全体の5割超を占めています。

金融資産は分割しやすい一方、評価額がそのまま課税対象になりやすいという特徴があります。地価上昇と金融資産の増加が同時に進むことで、相続税の課税ベースはより広く、より厚くなっています。

相続税は「最後のとりで」なのか

相続税は、世代をまたぐ資産格差を調整する役割を持っています。
所得税には累進構造がありますが、金融所得は一定税率で課税されるため、高所得層ほど実質的な負担率が下がる「1億円の壁」と呼ばれる問題が指摘されてきました。

金融所得課税の強化はたびたび議論されてきましたが、投資促進との兼ね合いから実現は容易ではありません。
その中で相続税は、「支払い能力のある人に応分の負担を求める税制」として機能してきた側面があります。実際、相続税収の大半は、課税資産が2億円を超える層から生じています。

節税とのいたちごっこが示すもの

相続税を巡っては、節税策とのいたちごっこが続いてきました。
タワーマンションを活用した評価引き下げ、小口化不動産商品など、制度の隙間を突く手法が広がるたびに、国はルール改正で対応してきました。

近年の改正の流れは、「過度な節税を抑え、実質的な負担の公平性を高める」方向に明確に向かっています。
単に税収を増やすというより、相続税を社会保障制度の維持と結びつけ、社会への還元として位置づけ直そうとする動きとも言えます。

結論

相続税は、もはや一部の資産家だけの問題ではありません。
地価・株価の上昇と少子化の進行により、相続税の課税対象は今後も広がる可能性があります。

重要なのは、相続税を「避けるべきもの」とだけ捉えるのではなく、制度の趣旨と現実を正しく理解することです。
誰にでも起こり得る問題として、早い段階から全体像を把握し、冷静に備える姿勢が、これからの大相続時代には求められています。

参考

・日本経済新聞「大相続時代、広がる課税の裾野」(2025年12月16日朝刊)
・日本経済新聞「節税巡りいたちごっこ」(2025年12月16日朝刊)
・国税庁 相続税統計資料
・財務省 税収見通し資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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