海外取引の増加や外貨建て金融商品の普及により、日々の会計処理や決算で「外貨建て取引」を扱うケースが中小企業や個人事業主でも増えてきました。輸出入、海外サービスの購入、クラウドツールのドル請求、外貨建てMMF・外国株式など、外貨が関わる取引は年々日常化しています。
本稿では、外貨建て取引の会計処理・税務処理を、実務で押さえておくべきポイントに絞って整理します。決算・消費税・法人税・所得税を横断して確認できるように構成しています。
1. 外貨建て取引の基本原則
外貨建て取引に共通する会計・税務上の基本原則は次の2つです。
(1) 取引発生時点で円換算する
会計上は「取引日レート(実勢レート)」で円換算するのが原則です。
法人税法でも、取引時の円換算額を基礎に損益認識することが求められます。
(2) 決算日に期末レートで評価する(外貨建勘定)
外貨建ての金銭債権・債務・外貨預金は期末に為替換算し、評価差額は為替差損益として損益計上します。ただし、投資有価証券などの外貨建て資産については「金融商品評価のルール(時価法・原価法)」が優先されるため注意が必要です。
2. 会計処理(勘定科目と仕訳の基本)
2-1 外貨建売掛金・買掛金
もっとも実務で頻出するパターンです。
■ 売上計上時
・売掛金は取引日レートで円換算
・入金時に為替差損益が生じる
例)1,000ドルの売上、取引レート150円 → 入金時155円の場合
取引時:売掛金150,000/売上150,000
入金時:普通預金155,000/売掛金150,000
為替差益 5,000
■ 買掛金も同様
支払時に為替差損益が発生します。
2-2 外貨預金
外貨預金は「普通預金」ではなく「外貨預金」勘定で管理します。
■ 入金・出金
その時点のレートで換算して処理します。
■ 期末評価
外貨預金は金銭債権・債務と同じ扱いのため、期末レートで評価替えし、差額は為替差損益を計上します。
2-3 外国株式・外貨建てMMF
外貨預金とは異なり、次の点に注意が必要です。
■ 外国株式
・取得原価は「取得日の為替レート」で円換算
・決算評価は「有価証券の評価基準」に従う
(時価法適用の場合は時価評価、原価法の会社は評価替えなし)
■ 外貨建てMMF
決算日に時価評価を行い、為替変動による影響も含めて評価損益を認識します。
外貨預金のような単純な為替差損益ではなく「運用損益+為替影響」を合わせて評価する点がポイントです。
3. 税務処理(法人税・所得税の考え方)
3-1 法人税:原則「会計処理=税務処理」
外貨建て取引は法人税法上、原則として「会計上の換算方法」をそのまま認めます。
■ 認められないケース
・為替換算益を任意に繰り延べる
・評価損だけ計上し、評価益を計上しない
といった恣意的な処理は否認されます。
3-2 個人事業主(所得税)の取扱い
所得税法でも基本は「外貨換算は取引日レート」「期末は評価替え」が原則です。
ただし、個人の場合は次の点を厳密に区別します。
■ ① 事業用の外貨取引
事業所得の計算に組み込みます(売掛金・買掛金・外貨預金など)。
■ ② 投資用の外貨資産
外貨預金は雑所得、外国株式の売買は譲渡所得(または申告分離課税)になります。
事業と投資が混在する場合は口座を分けて管理することが重要です。
4. 消費税の判定(実務で最も混乱しやすいポイント)
外貨建て取引で最も問い合わせが多いのが消費税です。
判断の軸は「資産の譲渡等が国内かどうか」です。
4-1 外貨建売上
取引内容に応じて消費税の判定が変わります。
■ 輸出取引(国外に対する資産の譲渡)
→ 輸出免税
外貨建てであっても「売上の性質」で判断します。
■ 国内向け販売
→ 課税売上(円換算額が課税標準)
4-2 外貨建仕入
仕入側も売上と同じで「取引の実態」で判定します。
■ 海外業者からの役務提供(SaaS・クラウド利用料など)
→ 課税仕入(仕入税額控除可)
海外のクラウドサービス利用が増えているため、ここは要確認です。
4-3 外貨建て金融商品の取扱い
外貨預金や外貨MMFの「為替差益・運用益」は非課税取引です。
金融商品取引そのものは消費税の課税対象外のため、課税売上割合に影響しない点に注意します。
5. 外貨建ての固定資産(輸入資産)の注意点
機械設備やソフトウェアを外貨で購入する場合、論点が増えます。
■ ① 取得価額は「実際の支出額(円換算)」
外貨金額 × 取得日の為替レート で取得価額を確定します。
■ ② 関税・保険料・運賃などは取得原価に算入
輸入取引の場合は付随費用も含めて原価を構成します。
■ ③ 支払時の為替差損益
固定資産の取得価額には含めず「営業外損益」として処理します。
6. 外貨建ての借入金・貸付金
外貨建て借入金・貸付金は期末に評価替えを行い、為替差損益を計上します。
■ 法人税
評価損益は原則として税務上も損金・益金として認められます。
■ 注意
グループ会社間の外貨建て貸付は移転価格の問題が発生する場合があり、利率設定や契約内容の妥当性が問われます。
7. 外貨建て取引でよくあるミス(実務上の落とし穴)
① 銀行レートを使わず、月末のTTS・TTBをそのまま使用
実務では「仲値(TTM)」や「実勢レート」を使用すべき場面が多く、ルールを統一することが重要です。
② 評価益だけ飛ばして評価損だけ計上
税務上否認される可能性が高く、期末評価は一貫性が求められます。
③ 外貨預金と外貨MMFの違いを混同
外貨預金は金銭債権扱い、MMFは金融商品扱いで評価ルールが異なります。
④ 海外SaaSの消費税区分を誤る
海外サービスは課税仕入(仕入税額控除可)が原則ですが、経理担当者に浸透していないことが多いポイントです。
結論
外貨建て取引の会計・税務は、
①発生時点のレート換算
②期末評価
③消費税判定
④投資取引と事業取引の区分
の4つを軸に整理すると理解しやすくなります。
実務では、レート選択・評価基準・消費税区分でミスが起きやすいため、経理規程に「外貨建て処理ルール」を明確に定め、継続適用することが重要です。外貨を扱う企業は増え続けており、正確な処理によって税務調査時の指摘リスクを大きく減らすことができます。
出典
・法人税基本通達
・所得税基本通達
・消費税法および施行令
・金融商品会計基準(企業会計基準第10号)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
