外国人による土地取得をめぐる議論は、感情と制度が交錯するテーマです。
安全保障への不安、不動産価格の上昇、地域社会の変化――こうした問題意識が重なり、「規制すべきか」という問いが繰り返し提起されています。
本シリーズでは、制度の歴史、各国比較、実証分析、税制の可能性という観点から、この問題を整理してきました。
本稿ではそれらを統合し、日本がどの原則を維持し、どこを見直すべきかを整理します。
日本の基本原則 ― 内外人平等と自由な投資
日本の土地制度の根幹には、内外人平等原則があります。
外国人であっても、原則として日本人と同様に財産権を享有できる。この考え方は、戦後の経済発展と国際協調の中で定着してきました。
この原則は単なる理念ではなく、次のような実務的意義を持っています。
・国際投資の信頼基盤となる
・市場の透明性と流動性を支える
・恣意的な差別を排除する
したがって、この原則を安易に崩すことは、日本の制度的信頼を損なうリスクを伴います。
変化する環境 ― 安全保障と社会不安の顕在化
一方で、制度を取り巻く環境は大きく変化しています。
国際情勢の不安定化により、安全保障の観点から土地利用を捉える必要性が高まりました。また、不動産価格の上昇や都市部への人口集中が、外国人投資への警戒感と結びついています。
さらに、人口減少の進展により、空き地・低利用地の増加という新たな課題も顕在化しています。
これらは、従来の制度が想定していなかった問題です。
誤解と本質 ― 「所有」ではなく「利用」の問題
本シリーズで繰り返し確認してきた重要な点は、問題の本質は「所有」ではなく「利用」にあるということです。
外国人が土地を所有しても、日本の領土であることは変わらず、日本法が適用されます。したがって、所有そのものが直ちに安全保障リスクを生むわけではありません。
一方で、予測不能な開発や不適切な利用に対する不安は現実のものです。
つまり、対応すべきは「誰が持っているか」ではなく、「どのように使われているか」です。
制度設計の基本軸 ― 4つの政策手段
外国人土地取得をめぐる制度設計は、次の4つの手段の組み合わせとして整理できます。
① 取得規制
安全保障上のリスクが明確な場合に限定して導入されるべき手段です。対象や範囲を限定しなければ、法原則との整合性を損ないます。
② 利用規制
土地利用の内容に着目した規制であり、最も本質的な対応手段です。重要施設周辺や特定用途に対する規制は、この枠組みに位置づけられます。
③ 税制・負担調整
投機的取引や低利用に対してコストを課すことで、市場行動を調整する手段です。柔軟性が高く、制度設計の幅が広いという特徴があります。
④ 情報基盤整備
所有・利用の実態を把握するためのデータ整備です。すべての制度の前提となる基盤であり、最も重要な要素です。
日本が見直すべきポイント
では、日本はどこを見直すべきでしょうか。
第一に、情報の可視化です。外国人による土地取得の実態について、客観的なデータに基づく把握と公表が不可欠です。
第二に、土地利用ルールの強化です。予測不能な開発や低利用を防ぐための制度整備が求められます。
第三に、政策手段の多様化です。規制だけでなく、税制や地域参加の仕組みを組み合わせた対応が必要です。
守るべきもの ― 法の支配と国際的信頼
一方で、日本が維持すべきものも明確です。
それは、法の支配と内外人平等という原則です。
外国人であることを理由に一律の制限を課すことは、短期的には不安の解消につながるように見えても、長期的には制度の信頼性を損なうおそれがあります。
むしろ、合理的な根拠に基づく限定的な措置を積み重ねることが、日本の国際的な立場を強化することにつながります。
今後の方向性 ― 「誰が」から「どう使うか」へ
今後の制度設計においては、発想の転換が求められます。
「誰が土地を取得するか」ではなく、「土地がどのように使われるか」に焦点を移すことです。
そのためには、
・地域住民の関与による土地利用の決定
・データに基づく政策形成
・規制と課税の組み合わせ
といった仕組みが重要になります。
結論
外国人の土地取得をめぐる問題は、単なる規制の是非ではありません。
それは、日本の土地制度そのもののあり方を問い直す問題です。
・原則を守るのか
・現実に対応するのか
この二つは対立するものではなく、両立させるべきものです。
内外人平等という原則を維持しつつ、利用規制、税制、情報基盤を組み合わせて制度を進化させる。
それこそが、不安の解消と持続的な社会の実現を両立させる現実的な道筋といえます。
参考
・日本経済新聞「高市政権の外国人政策(下)土地取得規制 まず実態把握」2026年3月18日
・国土交通省「国土の管理構想」2021年
・内閣府「重要土地等調査法関連資料」2021年
・各国の不動産制度および外国人投資規制に関する公表資料

