外国人の土地取得規制をどう考えるか ― 不安と法原則の間で

人生100年時代

外国人による土地取得をめぐる議論が再び活発になっています。
安全保障や不動産価格の上昇といった論点が絡み合い、「規制すべきか」という問いは世論の関心も高いテーマです。

高市政権は、外国人政策の一環として土地取得の実態把握とルールの見直しに踏み出しました。しかし、この問題は単純に規制の是非だけで整理できるものではありません。

本稿では、外国人の土地取得をめぐる制度の歴史と現状を踏まえながら、今後の制度設計の方向性を整理します。


外国人土地所有をめぐる歴史的経緯

日本における外国人の土地所有の扱いは、時代によって大きく変化してきました。

開国期には、外国人に対して土地所有を認めない政策が採られていました。これは、日本の主権が及ばない主体による土地所有を防ぐためです。その後、明治期に入り、不平等条約の改正により外国人にも日本の裁判権が及ぶようになると、「内外人平等」の考え方が導入されます。

1925年の外国人土地法を経て、戦後の制度改革、そして1979年の外国為替管理法改正により、現在の自由な土地取得の枠組みが確立されました。

この流れの背景には、「国際協調のもとで自由な投資を認めることが経済発展に資する」という考え方があります。


現在の制度と安全保障の視点

現在の日本では、外国人であることを理由に土地取得を制限する制度は原則として存在しません。

ただし、2021年に制定された重要土地等調査法により、防衛施設周辺や国境離島などについては、利用状況の調査や是正措置が可能となっています。ここでは「取得」そのものではなく、「利用」が規制の対象となっています。

つまり、日本の制度は一貫して「取得の自由」を維持しつつ、「利用の適正化」で対応する構造を採っています。


なぜいま不安が高まっているのか

それにもかかわらず、外国人による土地取得への不安は強まっています。その背景にはいくつかの要因があります。

第一に、安全保障環境の変化です。国際情勢の不安定化により、土地取得が安全保障リスクと結びつけて語られる場面が増えました。

第二に、不動産価格の上昇です。都市部の価格高騰が外国人投資の影響と結びつけて理解される傾向があります。

第三に、制度への理解不足です。外国人が土地を取得すると「領土が奪われる」といった誤解も一部で見られます。しかし、土地所有と国家主権は別概念であり、外国人が所有しても日本の法制度は当然に適用されます。


本質的な問題は土地利用制度にある

むしろ重要なのは、土地の「所有」ではなく「利用」の問題です。

例えば、予測できない開発や地域に不利益をもたらす利用が行われるのではないかという不安は、現行の土地利用規制の弱さに起因しています。

外国人であるかどうかに関係なく、問題のある開発行為に対して適切に規制できる制度が整っていれば、不安は大きく軽減されるはずです。

したがって、問題の本質は「外国人規制」ではなく、「土地利用ルールの整備」にあります。


拙速な規制がもたらすリスク

外国人の土地取得を一律に規制することには慎重であるべきです。

第一に、日本が長年維持してきた内外人平等原則との整合性が問われます。これは単なる国内ルールではなく、国際的な信頼の基盤でもあります。

第二に、経済的な影響です。不動産市場への投資が制約されれば、市場の流動性や開発投資に影響を与える可能性があります。

第三に、規制の実効性です。適切な根拠や対象を定めないまま導入された規制は、かえって市場の歪みを生むおそれがあります。


まず必要なのは「見える化」

現時点で最も重要なのは、外国人による土地取得の実態を正確に把握することです。

どの地域で、どの程度の規模で、どのような目的で取得されているのか。これらのデータが十分に整備されていない中で議論だけが先行している状況があります。

政府が進める不動産情報のデータベース整備は、この意味で重要な基盤となります。客観的なデータに基づく議論こそが、制度設計の出発点となるべきです。


地域参加型の土地利用という方向性

今後の制度設計において注目すべきなのが、地域住民の関与による土地利用の仕組みです。

誰が所有しているかではなく、「どのように使われるか」を地域でコントロールする発想です。

このアプローチは、外国人の取得に対する不安を抑えると同時に、地域の持続的な発展にもつながります。

海外でも、住民参加型の土地利用制度を持つ国ほど、外国人の土地取得に対して比較的寛容である傾向が見られます。


結論

外国人の土地取得をめぐる議論は、不安と原則の間で揺れ動いています。

しかし、重要なのは感情的な議論ではなく、制度の本質を見極めることです。

・土地所有と主権は別であること
・問題の中心は利用規制にあること
・拙速な規制は市場と国際信頼を損なう可能性があること

これらを踏まえれば、取るべき方向性は明確です。

まずは実態の把握と制度の見える化を進め、その上で必要最小限の規制を検討する。そして同時に、土地利用ルールの整備と地域参加の仕組みを強化する。

この積み重ねこそが、安全保障と経済活動の両立を図る現実的な道筋といえます。


参考

・日本経済新聞「高市政権の外国人政策(下) 土地取得規制 まず実態把握」2026年3月18日
・国土交通省「国土の管理構想」2021年
・内閣府「重要土地等調査法関連資料」2021年

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