「土地の値段が上がっている」というニュースを耳にしても、私たちの暮らしにどう関わるのか、ピンとこない方も多いかもしれません。
しかし、国土交通省が毎年発表する基準地価は、住宅購入や不動産投資、さらには相続税や固定資産税の負担にまで直結する、生活者にとって重要なデータです。
2025年7月1日時点の調査結果では、全国の地価は4年連続で上昇しました。その背景には東京圏を中心とした再開発や海外マネーの流入があり、日本経済と不動産市場の関係を考えるうえで注目すべき動きが見えてきます。
本稿では、シリーズの第1回として「全体像」と「東京圏のけん引力」に焦点をあてます。
1. 基準地価とは何か
基準地価は、国土交通省が毎年9月に公表する「全国約2万地点の土地価格」を示す指標です。1㎡あたりの標準価格を評価し、住宅地や商業地、工業地といった用途ごとに算出されます。
主な役割は以下のとおりです。
- 住宅購入の参考:土地取引の価格目安となる
- 税金の基準:路線価や固定資産税評価額の算定資料
- 都市計画の指標:再開発やインフラ整備に活用
つまり「地価の定点観測」であり、長期的な不動産市場の動きを読み解くうえで欠かせない指標です。
2. 全国の地価動向 ― 4年連続の上昇
2025年の基準地価は、全国の全用途平均で1.5%上昇しました。前年より伸び幅が拡大し、バブル期の1991年以来の高水準です。
- 上昇した地点の割合:49.3%(前年は48.3%)
- 全国的な傾向:住宅地・商業地ともに緩やかな回復サイクル
特に目を引くのは、バブル後長らく低迷していた「全国的な地価」が着実に上向いている点です。日本経済全体の名目GDPが伸びていることや、インフレ下で資産にマネーが流入していることが背景にあります。
3. 東京圏がけん引 ― 海外マネーと再開発の波
全国平均を大きく押し上げているのは東京圏です。
2024年の上昇率4.6%から、2025年は5.3%に加速しました。
その要因は次の3つに整理できます。
- 海外投資マネーの流入
円安の追い風もあり、オフィス・ホテル・住宅など幅広い不動産に海外マネーが集まっています。 - 都心部の再開発ラッシュ
千代田区・中央区・港区の「都心3区」を中心に大型プロジェクトが相次ぎ、資産価値を押し上げています。 - 人口の都心回帰
交通利便性や生活利便性を求めて、若い世代の都心流入が続いています。
象徴的な事例
- 銀座2丁目「明治屋銀座ビル」:1㎡あたり4690万円(前年比+11.4%)
→ 20年連続で全国トップの地価 - 港区赤坂の住宅地:上昇率15.6%(前年は6.1%)
→ 都心高級住宅地の需要が加速
これらの数字は、インバウンド需要や国内富裕層の購入意欲が相まって、東京の土地が依然として「世界レベルの資産」と見なされていることを示しています。
4. 地価上昇はなぜ起きるのか
地価が上がる背景には「経済成長」と「資金流入」の二重効果があります。
- 経済成長:名目GDPが伸びる → 企業や個人の購買力が上がる
- 資金流入:インフレや円安下で、現金より実物資産にマネーが向かう
土地は供給が限られるため、一度需要が強まると価格上昇が持続しやすい特性があります。これが「地価サイクル」を形成するのです。
5. 生活者にとっての意味
東京圏の地価上昇は、投資家や企業だけでなく、私たちの暮らしにも直結します。
- 住宅購入が難しくなる:特に都心の新築・中古マンション価格は手が届きにくい水準に
- 相続税・固定資産税への影響:地価上昇=路線価上昇 → 税負担増加の可能性
- 不動産投資の妙味:資産防衛やインフレ対策としての不動産の魅力が再評価される
FP・税理士視点で言えば、「地価上昇=資産価値が増える」ことはプラスに見える一方で、税負担や生活コストの上昇というマイナス面もあるため、両面を冷静に考える必要があります。
6. まとめ ― 東京圏の動きが全国を映す鏡に
2025年の基準地価は、4年連続の上昇。特に東京圏の動きが全国を押し上げています。
- 銀座や赤坂に象徴される「都心ブランド」の強さ
- 海外マネー流入による不動産市場のグローバル化
- 生活者にとっては住宅購入・税負担の増大という現実
第1回では「全体像と東京圏」を取り上げました。次回は、大阪・名古屋・地方都市の動きを詳しく見ていきます。都市ごとの温度差を理解することは、これからの暮らしや投資判断に直結するヒントとなるでしょう。
📖 参考
日本経済新聞「基準地価4年連続上昇 東京けん引、海外マネー流入」
2025年9月17日付・総合2面
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
