基準地価上昇と暮らし・資産戦略(第3回)
土地の価格は、単なる不動産市場の話ではなく、経済全体の動きと深く結びついています。2025年の基準地価が4年連続で上昇した背景には、日本の経済成長と物価の動きがあります。
今回は、「地価と経済はどうつながっているのか」をテーマに、インフレやGDPとの関係を整理してみましょう。
1. 名目GDPと地価の相関関係
国の経済規模を示す指標に「GDP(国内総生産)」があります。特に物価変動を含んだ「名目GDP」は、地価と相性が良い数字です。
- 2024年度の名目GDP:3.7%増(4年連続プラス)
- 2025年4〜6月期(年率換算):6.6%増
経済全体が拡大すれば、企業活動が活発になり、住宅やオフィス、商業施設への需要も高まります。結果として地価が上がりやすくなるのです。
2. インフレと資産のシフト
インフレ(物価上昇)も地価に大きな影響を与えます。
物価が上がる局面では、現金の価値が相対的に下がります。そのため、資金は「実物資産」へと流れやすくなります。
- 土地・不動産:供給が限られているため、資産防衛の受け皿に
- 金(ゴールド):世界共通で価値を持つ資産として買われやすい
- 株式:企業業績やインフレ転嫁力を持つ企業に資金が向かう
この「資金シフト」が、2025年の地価上昇の背景にもあります。特に円安の影響で、海外投資家から見た日本の不動産が割安に映り、資金流入が増えています。
3. 地価上昇のサイクル
地価には「サイクル」があります。
バブル崩壊後の長い低迷を経て、近年は以下の要因が重なり、上昇サイクルに入っています。
- 低金利環境
金利が低いと融資が受けやすくなり、不動産投資が活発化します。 - インバウンド需要
観光客向けのホテルや商業施設の需要が増加。 - 人口動態の変化
都心への人口集中が続き、都市部の住宅需要を押し上げています。 - 再開発プロジェクト
東京・大阪・福岡をはじめとする都市の再開発が、局所的に価格を押し上げ。
これらが複合的に作用し、「経済の伸び → 地価上昇 → 不動産投資増 → さらに地価上昇」という循環を生んでいます。
4. 世界経済と海外マネー
もう一つ見逃せないのは、海外資金の存在感です。
特に東京や大阪の都心部は、アジアの投資マネーが流入しやすい市場です。
- 円安により「海外から見て割安」な投資先に
- 安定した政治・経済環境への信頼感
- 大規模再開発で将来の収益期待が高い
このような要因で、オフィス・ホテル・高級住宅など幅広い分野に海外資金が入っています。結果的に、地価上昇が国内需要以上に押し上げられている側面もあります。
5. 生活者の視点から考える
経済やインフレと結びついた地価上昇は、私たちの暮らしにもさまざまな影響を与えます。
- 住宅購入
インフレ下で物件価格が上がり続けると、買い時を逃す不安が強まる。 - 家計の資産配分
預金だけでなく、株式や不動産投資信託(REIT)など、インフレに強い資産を組み合わせる必要性が増す。 - 税負担
地価上昇は路線価の上昇につながり、相続税や固定資産税が増える可能性がある。
こうした影響を踏まえると、地価のニュースは単なる「不動産業界向け」ではなく、私たち一人ひとりの生活設計に直結する情報だといえるでしょう。
6. 今後の見通し
専門家の見立てでは、「当面、都心を中心に地価上昇は続く」とされています。
ただし注意点もあります。
- 世界的に金利が上昇すれば、不動産市場の資金調達コストが上がる。
- インバウンド需要が鈍化すれば、ホテルや商業施設の地価は下落リスクも。
- 日本経済が再び停滞すれば、地価も下押しされる。
つまり、現在の上昇局面は永続的ではなく、経済・金融環境に大きく左右されるということです。
まとめ
2025年の基準地価上昇の裏側には、インフレと名目GDPの拡大、そして海外マネーの流入があります。
「経済の伸びがそのまま土地価格に反映される」ことを理解することは、不動産購入や資産形成を考えるうえで大切です。
次回(第4回)は、「生活者への影響 ― 住宅購入・相続税・固定資産税」をテーマに、より身近な暮らしとの関わりを掘り下げます。
📖 参考
日本経済新聞「基準地価4年連続上昇 東京けん引、海外マネー流入」
2025年9月17日付・総合2面
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
