4月から在職老齢年金制度が見直されます。これにより、働きながら年金を受け取る高齢者の手取りに変化が生じるとともに、税制面では「給与のみ」の人と「給与と年金がある」人との控除額の差が改めて注目されることになります。
令和8年度税制改正大綱では、この差に対応するため、給与所得控除と公的年金等控除の合計額に280万円の上限を設ける方針が示されました。本稿では、制度改正の内容と税制上の論点を整理します。
1 在職老齢年金制度の見直し内容
在職老齢年金制度とは、働きながら老齢厚生年金を受給する場合に、給与と年金の合計額が一定水準を超えると年金の一部が支給停止となる仕組みです。
現行制度では、給与と老齢厚生年金の合計額が月額51万円を超えると、超過額の2分の1が老齢厚生年金から減額されます。
これが令和8年4月からは、基準額が月額65万円へと引き上げられます。
例えば、月額給与46万円、老齢厚生年金10万円の場合、従来は合計56万円となり、基準額51万円を5万円超えるため、その半額2万5000円が支給停止となっていました。
改正後は基準額が65万円となるため、支給停止は生じず、老齢厚生年金を全額受給できることになります。
なお、調整の対象は老齢厚生年金であり、老齢基礎年金は減額されません。また、支給停止額の計算は月単位で行われます。
この見直しは、昨年6月に成立した年金制度改正法に基づくものです。高齢者の就労促進という政策目的が背景にあります。
2 なぜ税制改正が必要になったのか
在職老齢年金の基準額引き上げにより、年金を減額されずに受け取れる人が増えることになります。その結果、所得税計算における「控除の差」がより顕在化することになりました。
給与のみの人は、給与所得控除のみが適用されます。
一方、給与と年金の双方がある人は、給与所得控除に加え、公的年金等控除も適用できます。
つまり、同じ総収入額であっても、収入の内訳が「給与のみ」か「給与+年金」かによって、適用できる控除額が大きく異なるという問題が生じます。
在職老齢年金の見直しによって、年金の受給額が増えれば、この差はさらに拡大します。政策として就労を後押しする一方で、税負担の公平性という観点から調整が必要となったのです。
3 控除合計280万円上限の内容
令和8年度税制改正大綱では、給与所得控除と公的年金等控除の合計額に280万円の上限を設けることとされました。適用は令和9年分以後の所得税からです。
例えば、65歳以上の者で年金収入が200万円の場合、公的年金等控除は110万円となります。
このとき給与収入が630万円であれば、給与所得控除は170万円となり、合計280万円に達します。
これ以上給与が増えても、両控除の合計は280万円が上限となります。
この改正は、「給与のみ」の人とのバランスを意識したものといえます。すなわち、収入構造の違いによる控除の過度な差を抑制し、税負担の公平性を一定程度確保しようとする措置です。
4 実務上の留意点
実務上は、以下の点に留意が必要です。
第一に、適用開始時期です。制度見直しは令和8年4月からですが、控除上限の適用は令和9年分以後の所得税です。
年金制度と税制改正のタイミングがずれている点に注意が必要です。
第二に、年金受給開始年齢や給与水準によって影響が異なることです。
特に65歳以上で一定の給与水準にある方は、控除合計が上限に達する可能性があります。個別のシミュレーションが重要になります。
第三に、政策の方向性です。
年金制度では就労促進、税制では控除制限という調整が行われており、社会保障と税制を一体で考える視点が今後さらに重要になります。
結論
在職老齢年金制度の見直しは、高齢者の就労意欲を高める政策として位置付けられています。しかし、その結果として生じる税制上の不均衡に対しては、給与所得控除と公的年金等控除の合計280万円上限という形で調整が図られました。
本改正は、単なるテクニカルな控除制限ではなく、社会保障と税制のバランスをどう取るかという政策判断の表れです。
働き方が多様化する中で、年金と給与の組み合わせは今後さらに一般化すると考えられます。制度改正の趣旨を踏まえつつ、自身の収入構造と税負担の関係を冷静に確認することが求められます。
参考
税のしるべ 2026年2月23日
「4月から在職老齢年金制度を見直し、給与のみの場合との控除額の差の問題が顕在化」

