在宅医療と訪問看護の今後 制度改革の方向性とこれからの展望

FP
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2026年度診療報酬改定は、訪問看護の「過剰提供」問題に対する是正策として注目されています。しかし、今回の改定はあくまで第一歩であり、日本の在宅医療・訪問看護はこれから大きな転換期を迎えると言われています。

高齢化が進む中、医療・介護・生活支援をどのように組み合わせ、地域で持続可能な形にしていくかは、これからの社会保障を考える上で不可欠なテーマです。本稿では、制度改革の方向性と、訪問看護の未来の姿を展望します。

1.在宅医療をめぐる環境は大きく変化している

日本の在宅医療は、次のような状況に直面しています。

■ 超高齢化の加速

  • 75歳以上人口が急増
  • 独居高齢者が増加
  • 認知症患者数が増え続ける

■ 病床削減と地域医療構想の推進

  • 急性期病床は縮小方向
  • 在宅医療・訪問看護への期待が高まる

■ 医療・介護人材の不足

  • 看護師不足
  • 介護職の離職増
  • 地域によっては訪問看護事業所が減少

訪問看護の需要は高まっている一方で、提供体制は逆に弱くなりかねない、非常に厳しい環境にあります。


2.制度改革の方向性①

「必要性に応じた訪問」を明確にする流れ

2026年度改定を皮切りに、訪問看護は以下の方向で制度設計が進むと見られます。

  • 訪問頻度を「医学的必要性」で判断
  • 訪問内容の記録義務がさらに強化
  • 医師の指示書の詳細化
  • 訪問看護計画書・報告書の厳格化

これにより「必要以上の訪問」が減り、訪問看護の提供がより透明化されることが期待されます。


3.制度改革の方向性②

医療保険と介護保険の整理・明確化

現在、訪問看護は医療保険と介護保険の“境界線”が曖昧で、制度のすき間が利用されやすい構造です。

今後は、

  • 医療保険の対象疾病の再整理
  • 医療保険と介護保険の役割分担の明確化
  • 介護保険での訪問看護提供体制の強化
  • 医療・介護双方のモニタリング強化

といった方向で、より合理的な区分が進むと考えられます。


4.制度改革の方向性③

高齢者住宅と訪問看護の「適正な関係」

高齢者住宅(サ高住・有料老人ホームなど)と訪問看護は非常に相性が良く、利用者も多いのが現状です。

今後は、

  • 大量訪問モデルの抑制
  • 高齢者住宅側のケア体制の強化
  • 住宅と訪問看護の“囲い込み”の是正
  • 利用者の選択権の確保

といった点が求められます。

適正化は必要ですが、住宅側のケア機能が弱い地域では逆に支援不足が深刻化しないよう、バランス感覚のある制度改革が必要となります。


5.制度改革の方向性④

訪問看護の質の可視化・評価制度の導入

今後は、訪問看護の質を評価する仕組みが導入される可能性も高まっています。

  • 状態改善率
  • 急変回避の実績
  • 入院率
  • 利用者満足度
  • 訪問内容のエビデンス化

このような“質指標”が将来、報酬に反映される仕組みが議論される可能性があります。

これは、質の高いサービスを提供する事業所が正当に評価されることを意味します。


6.制度改革の方向性⑤

ICT・AI・デジタルの活用が必須に

訪問看護の現場では、ICTやAIの活用が急速に広がっています。

  • タブレットによる記録のリアルタイム共有
  • バイタルデータの遠隔モニタリング
  • 認知症見守りセンサー
  • AIによる急変リスク予測
  • 訪問ルート自動最適化
  • 音声入力による記録の効率化

人材不足時代には、これらのデジタル化がサービスの維持に欠かせません。
今後は、診療報酬上の評価(加算)として取り入れられる可能性もあります。


7.訪問看護の未来像:専門性の高いケアへシフト

今後の訪問看護は、“量”より“質”が求められ、次のような方向に進むと考えられます。

■ ① 医療依存度の高い利用者への集中

人工呼吸器管理・難病・がん終末期など
より高度な医療ケアへの対応が中心に。

■ ② 生活援助的ケアから医療的ケアへ

見守りや日常生活支援ではなく、
看護師の専門性を活かす方向に。

■ ③ 多職種連携が一段と重要に

訪問看護は、医師・訪問診療・リハビリ・ケアマネなどとの連携が必須に。

■ ④ 地域によって提供体制が分かれる

都市部ではステーションが多い一方、
地方では減少し「訪問難民」問題も懸念されます。

将来的には、地域格差を是正するための補助金や支援プログラムも重要になってくるでしょう。


結論

2026年度診療報酬改定は、訪問看護の過剰提供を是正し、必要なケアを適正に提供するための重要な一歩です。
しかし、訪問看護の本当の課題は、その先にある「制度全体の再設計」にあります。

在宅医療は今後、日本の医療提供体制の中心となる領域です。

  • 医療・介護の明確な役割分担
  • 訪問看護の質評価の導入
  • 高齢者住宅との適正な関係
  • ICT・AI等の活用促進
  • 地域で支える仕組みの構築

これらを組み合わせ、「必要な人が安心して在宅で暮らせる社会」をどう実現するかが今後の大きなテーマです。

訪問看護の未来は、制度改革と現場の努力の両輪によって形づくられます。今回の改定は、そのスタートラインに立ったと言えるでしょう。


出典

  • 日本経済新聞「過剰な訪問看護是正 厚労省が診療報酬下げへ」(2025年11月29日 朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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