国外年金と相続税 ― 米国遺族年金は課税対象となるのか

税理士
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海外で働いた経験を持つ人が増えるにつれて、日本以外の年金制度との関係が税務上の論点となる場面も増えています。
特に相続税の分野では、外国の年金制度から支給される遺族年金の受給権が課税対象となるのかという問題が生じることがあります。

2026年2月25日、東京地方裁判所は米国遺族年金の受給権をめぐる2件の訴訟について判決を下しました。
この判決では、米国の遺族年金の受給権は相続税法上の「みなし相続財産」に該当し、相続税の課税対象となるとの判断が示されています。

本稿では、この裁判例をもとに、国外年金と相続税の関係、そして評価方法の考え方について整理します。


国外年金受給権と相続税の問題

相続税法では、被相続人の死亡によって相続人が取得した財産だけでなく、一定の財産を「相続により取得したものとみなす」制度が設けられています。
これが、いわゆるみなし相続財産です。

その一つとして規定されているのが、

定期金に関する権利

です。

具体的には、相続税法3条1項6号において、

契約に基づくもの以外の定期金に関する権利

についても相続により取得したものとみなされるとされています。

今回問題となったのは、米国の社会保障制度に基づく遺族年金の受給権がこの規定に該当するかという点でした。


事件の概要

本件は、米国での勤務経験を持つ夫が死亡した後、妻が取得した米国遺族年金の受給権について争われたものです。

夫は日本企業に勤務し、米国に約12年間赴任していました。
米国の社会保障制度では、一定期間以上加入している場合、老齢給付金や遺族年金を受給する資格が得られます。

夫は死亡時に米国の老齢年金を受給しており、死亡後は妻が遺族年金の受給権を取得しました。

当時の年金額は

・月額 1,587ドル
・年額 19,044ドル

でした。

妻は相続税の申告を行いましたが、課税庁はこの遺族年金の受給権をみなし相続財産に該当すると判断し、更正処分を行いました。

これに対して納税者は、

・国内の公的年金の受給権は非課税である
・年金受給権の現在価値は測定できない

などとして、更正処分の取消しを求めて訴訟を提起しました。


東京地裁の判断

東京地裁は、納税者の主張を退け、課税庁の処分を適法と判断しました。

裁判所はまず、米国遺族年金の受給権について、

米国の法令に基づき遺族が直接取得する権利

であると認定しました。

そのうえで、この受給権は

契約によらない定期金に関する権利

に該当すると判断しました。

したがって、

相続税法3条1項6号の「みなし相続財産」に該当する

という結論が示されています。

つまり、被相続人の死亡によって遺族が取得する国外年金の受給権は、相続税の課税対象となる可能性があるということになります。


国内遺族年金との違い

納税者は、日本の遺族年金が非課税とされていることとの整合性を主張しました。

しかし、裁判所はこの点について次のように述べています。

厚生年金や国民年金の遺族年金が非課税とされているのは、

個別の法律により非課税とする規定が設けられているため

であり、制度上の例外的取扱いであるという考え方です。

したがって、

国外年金について同様の非課税規定がない以上、課税対象とすることは制度上不合理ではない

と判断されました。

この点は、税務実務上も重要なポイントです。
日本の社会保障制度の取扱いがそのまま外国制度にも適用されるわけではないということになります。


年金受給権の評価方法

本件では、年金受給権の評価方法も争点となりました。

課税庁は相続税法24条の規定に基づき、次の要素を用いて現在価値を算定しています。

評価の前提となった主な数値は以下のとおりです。

・平均余命
 65歳女性 24.24年(完全生命表)

・予定利率
 2.6%(米国社会保障年金信託基金の実効金利)

・年間受給額
 約203万円

これらを基に計算した結果、

受給権の評価額は約3,594万円

と算定されました。

裁判所は、この評価方法についても合理性があると認めています。

つまり、年金のように将来にわたって支給される給付であっても、一定の前提を置いて現在価値を算定することは可能であると判断されたことになります。


国際化と相続税実務

今回の裁判例は、日本企業の海外勤務が一般化した現在の実務において重要な示唆を与えるものです。

海外勤務者の場合、次のような制度が関係する可能性があります。

・外国の社会保障年金
・外国企業年金
・外国退職給付
・外国保険制度

これらの制度から遺族が給付を受ける場合、その受給権が

相続税の課税対象となるかどうか

を検討する必要があります。

特に注意すべきなのは、

国外制度には日本と同様の非課税規定が存在しない場合が多い

という点です。

そのため、日本の公的年金と同じ感覚で非課税と考えると、税務上の誤りにつながる可能性があります。


結論

東京地裁は、米国遺族年金の受給権について、

相続税法上の「契約に基づかない定期金に関する権利」に該当し、みなし相続財産として課税対象となる

との判断を示しました。

国内の遺族年金が非課税であることとの違いは、制度上の特例規定の有無によるものであり、国外年金については一般規定が適用されるという整理になります。

海外勤務経験を持つ人が増える中で、外国の年金制度と相続税の関係は今後さらに重要な論点となると考えられます。
相続実務においては、国外制度の内容と税法上の位置付けを慎重に確認することが求められるでしょう。


参考

税のしるべ
2026年3月6日
米国遺族年金の受給権は相続税の課税財産、東京地裁で納税者敗訴の判決

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