国外年金と相続税 ― 日米社会保障協定と年金制度の基礎

税理士
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近年、日本企業の海外進出や人材の国際的な移動が増え、海外で勤務した経験を持つ人も珍しくなくなりました。
その結果、日本の年金制度だけでなく、外国の年金制度との関係が税務上の論点となる場面も増えています。

特に相続税の分野では、外国の年金制度から遺族が受給する年金が課税対象となるのかという問題が生じることがあります。
東京地裁が2026年に示した米国遺族年金の判決でも、この点が争われました。

この問題を理解するためには、日米社会保障協定と米国年金制度の仕組みを整理しておく必要があります。
本稿では、国外年金と相続税の関係を考える前提として、日米社会保障協定と米国年金制度の基本構造を解説します。


日米社会保障協定の目的

日本と米国は2005年に社会保障協定を締結しています。

この協定の主な目的は、次の二つです。

二重加入の防止
年金受給資格の確保

海外勤務者の場合、日本の年金制度と赴任先の年金制度の両方に加入しなければならない可能性があります。
これでは保険料の負担が過重となるため、一定の条件のもとでどちらか一方の制度への加入に限定する仕組みが設けられています。

また、海外勤務の期間が短い場合、各国の年金制度で受給資格を満たさないことがあります。
そのため、日米社会保障協定では、

両国の加入期間を通算する制度

が設けられています。


米国年金制度の基本構造

米国の公的年金制度は、一般に

Social Security

と呼ばれる制度です。

この制度には主に次の給付があります。

・老齢年金
・障害年金
・遺族年金

米国年金の特徴は、加入期間が一定以上なければ受給資格が得られない点です。

一般的には、

約10年相当の加入期間

が必要とされています。

しかし、日本での加入期間を通算することにより、この条件を満たすことが可能になる場合があります。

これが、日米社会保障協定の重要な役割の一つです。


遺族年金制度の仕組み

米国の社会保障制度では、被保険者が死亡した場合、一定の条件のもとで遺族が年金を受給することができます。

典型的な受給者は次のとおりです。

・配偶者
・子
・一定の条件を満たす親族

配偶者の場合、年齢などの要件を満たすと、被保険者の年金記録を基に計算された遺族年金を受給することができます。

この遺族年金は、

被保険者の保険料納付記録に基づいて給付される制度

であり、契約による保険とは異なります。

そのため、日本の相続税法では、

契約に基づかない定期金に関する権利

として扱われる可能性があります。


国外年金と相続税の関係

国外年金が問題となるのは、相続税の課税関係です。

相続税法では、次のような権利をみなし相続財産として課税対象としています。

契約に基づかない定期金に関する権利

米国の遺族年金の受給権は、制度上、被保険者の死亡により遺族が直接取得する権利です。

そのため、東京地裁の判決では、

相続税法3条1項6号に該当する

と判断されました。

つまり、国外年金の受給権であっても、日本の相続税の対象となる可能性があるということです。


国内遺族年金との違い

日本の公的年金制度における遺族年金は、相続税の課税対象とはなりません。

これは、

社会保障制度としての性格

を考慮し、個別法によって非課税とされているためです。

しかし、国外年金については、このような非課税規定が存在しないことが一般的です。

そのため、

日本の遺族年金は非課税
外国の遺族年金は課税対象

という取扱いの違いが生じることがあります。

裁判所も、この違いについて

立法政策の問題

であると整理しています。


国際相続の実務への影響

海外勤務経験を持つ人が増える中で、国外年金が相続税の問題となるケースは今後さらに増える可能性があります。

特に次のような場合には注意が必要です。

・海外赴任期間が長い
・外国年金を受給している
・外国年金の遺族給付が存在する

このような場合、相続税の申告において、

年金受給権の評価

が必要になることがあります。

国外制度は制度内容の確認が難しい場合も多いため、制度資料の確認や専門家による検討が重要になります。


結論

日米社会保障協定は、海外勤務者の年金制度の調整を目的とした重要な制度です。
この協定により、日本と米国の年金制度の加入期間を通算することが可能となり、多くの海外勤務者が年金を受給できるようになっています。

一方で、国外年金の受給権は相続税の課税対象となる可能性があります。
東京地裁の判決では、米国遺族年金の受給権が「契約に基づかない定期金に関する権利」に該当するとされ、みなし相続財産として課税対象となると判断されました。

海外勤務経験が一般化する中で、国外年金と相続税の関係は今後ますます重要な論点となると考えられます。


参考

税のしるべ
2026年3月6日
米国遺族年金の受給権は相続税の課税財産、東京地裁で納税者敗訴の判決

厚生労働省
社会保障協定の概要

日本年金機構
米国年金制度の概要

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