固定資産税については、負担の重さや評価方法の問題がたびたび指摘されます。特に都市部では、資産価値の上昇と担税力の乖離が顕著であり、制度に対する違和感を持つ納税者も少なくありません。
それにもかかわらず、固定資産税が廃止されるという議論は現実的な選択肢としてほとんど浮上しません。なぜこの税は存続し続けるのでしょうか。
本稿では、その理由を制度構造の観点から整理します。
地方財政を支える基幹税であるという現実
固定資産税がなくならない最大の理由は、地方財政における重要性にあります。
固定資産税は、市町村にとって最も安定的な税収の一つであり、
- 景気変動の影響を受けにくい
- 毎年継続して課税できる
- 税収規模が大きい
という特徴を持っています。
所得税や法人税は景気に左右されますが、固定資産税は資産の保有に基づくため、税収の変動が比較的小さいのです。
この安定性は、行政サービスの継続的な提供にとって極めて重要です。
代替財源が存在しないという制約
仮に固定資産税を廃止する場合、その税収をどこかで補う必要があります。
しかし現実には、
- 所得課税を強化すれば労働や投資への影響が大きい
- 消費課税を強化すれば逆進性の問題が生じる
- 地方独自の新税を導入することは容易ではない
といった制約があります。
固定資産税は、これらの税とは異なる課税ベースを持つため、税体系全体のバランスを保つ役割も果たしています。
資産という「逃げにくい課税ベース」
もう一つの重要な理由は、資産が移動しにくい課税対象であることです。
所得や企業活動は、
- 海外への移転
- 節税スキームの活用
- 課税回避の余地
がありますが、土地や建物はその場に固定されています。
このため、
- 課税の捕捉が容易
- 税収の安定性が高い
- 税逃れが起きにくい
という特徴があります。
税務行政の観点から見ても、固定資産税は非常に効率的な税目です。
行政サービスとの対応関係
固定資産税には、受益と負担の関係という側面もあります。
土地や建物の価値は、
- 道路や上下水道の整備
- 防災・治安の維持
- 都市計画やインフラ投資
といった行政サービスによって支えられています。
そのため、
- 地域に資産を持つ者が
- その維持コストを負担する
という考え方には一定の合理性があります。
これは、応益課税の一形態として説明されることもあります。
制度としてのシンプルさと運用可能性
固定資産税は、
- 評価
- 課税標準
- 税率
という比較的シンプルな構造で運用されています。
もちろん実務上は複雑な側面もありますが、全国一律で大量の資産に課税する制度としては、現実的に運用可能な仕組みとなっています。
収益還元や所得連動のような精緻な仕組みは、理論的には合理的でも、実務上の負担が大きくなりすぎる可能性があります。
問題があっても「調整できる」制度である
固定資産税の特徴は、問題があっても制度そのものを変えずに調整できる点にあります。
実際に、
- 住宅用地特例
- 負担調整措置
- 税率の設定
などにより、税負担のコントロールが行われています。
この「調整可能性」によって、制度は大きな変更を伴わずに維持されてきました。
政治的に見ても廃止が困難
固定資産税は、多くの納税者に広く薄く負担を求める税です。
そのため、
- 特定の層に集中した税ではない
- 大規模な反対運動が起きにくい
- 制度変更の優先順位が上がりにくい
という特徴があります。
また、地方自治体にとっては重要な財源であるため、制度変更には強い抵抗が想定されます。
制度は「問題があっても残る」構造を持つ
ここまでを整理すると、固定資産税が存続している理由は単一ではありません。
- 地方財政の基盤
- 代替困難性
- 課税の確実性
- 行政サービスとの関係
- 制度の調整可能性
これらが組み合わさることで、「なくせない税」となっています。
つまり、固定資産税は「問題がないから残っている」のではなく、「問題があっても残らざるを得ない構造」を持っているのです。
結論
固定資産税は、担税力との乖離や都市部での負担問題など、多くの課題を抱えています。
しかし、それにもかかわらず制度が維持されているのは、税収の安定性と制度的な代替困難性によるものです。
税制は理論的な正しさだけで成立するものではなく、実務的な運用可能性や財政的な必要性とのバランスの中で維持されます。
固定資産税は、その典型例といえる存在です。
参考
税のしるべ 2026年3月23日
連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第83回(品川芳宣)