取得支援税制は資産格差を拡大していないか ― 住宅政策と分配構造の再検証

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

住宅ローン控除をはじめとする取得支援税制は、長年にわたり住宅取得を後押ししてきました。景気対策としても、少子化対策としても、住宅取得支援は重要な政策手段と位置づけられています。

しかし一方で、取得支援税制は資産格差を拡大していないか、という問いも生じます。本稿では、住宅取得支援と資産形成の関係を分配構造の観点から整理します。


取得支援税制の基本構造

住宅ローン控除は、一定の借入残高に応じて所得税・住民税から税額控除を行う制度です。

特徴は次のとおりです。

1.税額控除であること
2.借入額に比例すること
3.所得税額が上限となること

つまり、借入額が大きく、税額が大きい人ほど恩恵が大きくなる構造です。


所得階層別の効果の違い

税額控除は、税額が十分に発生している層に有利に働きます。

・高所得層 → 控除枠を使い切れる
・低所得層 → 税額が少なく控除を使い切れない

結果として、同じ住宅価格でも実質的な税負担軽減額は異なります。

取得支援税制は形式的には中立でも、実質的には所得水準に応じて効果が変わる制度です。


借入可能額の格差

住宅取得には、そもそも信用力が必要です。

・安定収入
・勤続年数
・自己資金

これらの条件を満たせる層ほど高額物件を取得でき、控除額も大きくなります。

取得支援税制は、既に住宅取得が可能な層をさらに後押しする構造を持っています。


地価上昇との関係

都市部では地価上昇が続いています。

取得支援が需要を下支えすることで、価格水準の維持・上昇に寄与する可能性があります。

その結果、

・既に保有している層 → 資産価値上昇
・未取得層 → 取得ハードル上昇

という分断が生じる可能性があります。


税制は「機会」を支援しているのか

取得支援税制の理念は、住宅取得という生活基盤形成の支援です。

しかし、税制は「取得機会」を平等に提供しているでしょうか。

住宅ローン控除は借入を前提としています。
借入ができない層は制度の外に置かれます。

つまり、制度は「借入可能層」を前提に設計されています。


資産形成の非対称性

住宅は日本の家計資産の中核です。

住宅価格の上昇は保有者にとっては資産増加ですが、非保有者にとっては参入障壁の上昇です。

取得支援税制が継続されることで、

・取得できた世帯 → 資産形成が進む
・取得できない世帯 → 賃貸に留まり資産形成機会を逃す

という構造が固定化される可能性があります。


一方での政策的必要性

もっとも、住宅市場の安定は経済全体にとって重要です。

住宅投資は内需の柱であり、建設業・不動産業・金融業を支えます。

取得支援税制を完全に撤廃すれば、住宅市場の急激な冷え込みを招く可能性もあります。

したがって、問題は「廃止か継続か」ではなく、「設計のあり方」です。


制度設計上の論点

取得支援税制が格差拡大につながる可能性を踏まえると、次の論点が考えられます。

1.所得制限の強化
2.給付型支援への転換
3.若年層・子育て世帯への重点化
4.住宅価格高騰地域への対応

税額控除中心の設計を見直すかどうかが焦点となります。


住宅は社会政策か資産政策か

住宅税制は、

・生活基盤支援
・景気対策
・資産形成支援

という複数の政策目的を内包しています。

取得支援が資産形成を後押しする以上、分配への影響は避けられません。

住宅を社会保障的に位置づけるのか、資産形成政策とみるのかによって、制度評価は変わります。


結論

取得支援税制が資産格差を拡大しているかどうかは、単純な二分論では語れません。

しかし、制度の構造上、

1.借入可能層に有利
2.税額発生層に有利
3.価格上昇局面では保有者に有利

という傾向を持つことは事実です。

住宅税制は景気政策であると同時に、資産分配政策でもあります。

取得支援税制を評価するには、住宅市場だけでなく、家計資産全体の分布構造を視野に入れる必要があります。


参考

・国税庁「住宅借入金等特別控除のあらまし」令和7年分
・内閣府「国民経済計算」
・総務省「家計調査」
・総務省「住宅・土地統計調査」

タイトルとURLをコピーしました