企業の設備投資を支援する税制として、「即時償却」と「税額控除」は長く並立してきました。どちらも投資促進を目的とする点は同じですが、効果の現れ方や実務処理には大きな違いがあります。
本稿では、税理士実務の現場で必要となる両制度の比較整理と、実際の仕訳・申告上の留意点を具体的に解説します。
1. 「即時償却」とは
「即時償却」は、対象となる設備投資の取得価額の全額を初年度に損金算入できる制度です。
通常の減価償却では耐用年数に応じて分割して経費化しますが、即時償却では初年度に一括して費用化できるため、課税所得の圧縮効果が極めて大きくなります。
主な法的根拠は、過去には「生産性向上設備投資促進税制」や「中小企業経営強化税制」などがあり、現行でも特定条件下で適用が可能です。
対象資産は機械装置・器具備品・建物附属設備・ソフトウェアなどで、一定の性能・生産性要件を満たすことが前提です。
2. 「税額控除」とは
「税額控除」は、取得した設備投資にかかった金額の一定割合を法人税額から直接差し引く制度です。
たとえば、投資額1億円・控除率10%なら、1,000万円を法人税額から控除できます。損金算入ではなく税額からの直接控除であるため、キャッシュアウトの削減効果が高いのが特徴です。
ただし、控除上限が「法人税額の20%」などに制限されることが多く、即時償却よりも効果が分散的になります。また、税額控除を選択した場合、減価償却を通常通り行うため、会計上の利益水準は比較的安定します。
3. 両制度の比較(効果と留意点)
| 項目 | 即時償却 | 税額控除 |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 初年度の費用化による課税所得圧縮 | 法人税額から直接控除による減税 |
| キャッシュフロー効果 | 即時に現れる(当期の納税軽減) | 税額ベースで限定的 |
| 会計上の利益影響 | 大きい(当期利益が減少) | 小さい(損金計上は通常通り) |
| 適用資産 | 機械装置・器具備品・ソフト等 | 同様(要件により差異あり) |
| 償却後の資産残高 | 0円(またはごく少額) | 通常通り残存 |
| 税務上の留意点 | 繰延税金資産・税効果会計に影響 | 控除限度の管理が必要 |
| 適用選択 | いずれか一方を選択(併用不可が原則) | 同上 |
両者を比較すると、即時償却は利益圧縮型、税額控除は納税軽減型と位置づけられます。
経営環境や損益計画に応じて、どちらを選ぶかを慎重に判断することが求められます。
4. 税理士実務での選択判断
税理士としては、クライアント企業の利益水準・設備投資計画・金融機関との関係などを総合的に踏まえた判断が必要です。
即時償却を選択すれば当期の法人税負担を大幅に軽減できますが、翌期以降の利益跳ね返り(課税所得増)に注意が必要です。
一方、税額控除は利益水準を安定させる効果があり、長期的な投資計画との整合性を保ちやすいといえます。
FP実務でも、中小企業経営者や個人事業主が「投資と納税のバランス」を考えるうえで、即時償却の短期集中型か税額控除の安定型かを理解することが重要です。
5. 仕訳例(即時償却・税額控除)
① 即時償却の場合(1,000万円の機械装置を購入)
(借)減価償却費 10,000,000 / (貸)建物・機械装置 10,000,000
→ 購入年度に全額費用化。翌年度以降の償却はなし。
② 税額控除の場合(投資額1,000万円・控除率10%)
(借)建物・機械装置 10,000,000 / (貸)現金預金 10,000,000
(借)法人税等 △1,000,000 (税額控除適用分)
→ 償却は通常どおり、法人税額から1,000,000円を控除。
税効果会計を適用している企業では、繰延税金資産や法人税等調整額の認識にも注意が必要です。特に即時償却は一時差異の影響が大きいため、申告調整における整合性を確保することが求められます。
6. 今後の改正動向
高市政権は、国民民主党提言の「ハイパー償却」や「即時償却」を経済対策の柱に据える姿勢を明確にしています。
したがって、2026年度税制改正大綱では、これらの特例がより広範囲の業種や資産に拡大される可能性があります。
税理士・FPとしては、制度ごとの選択シミュレーションを早期に整備し、顧客提案や節税計画の設計に活用することが望まれます。
結論
「即時償却」と「税額控除」は、どちらも企業の投資意欲を高めるための重要な税制ですが、税務・会計・資金繰りへの影響はまったく異なります。
短期的な費用効果を重視するなら即時償却、長期的な税負担軽減を狙うなら税額控除が有利です。
2025年度の税制改正では、ハイパー償却を含めた新たな選択肢が加わる見込みであり、税理士・FP実務では「制度の組み合わせ設計力」が問われる時代に入っています。
出典
日本経済新聞(2025年11月13日付)/財務省「税制改正要望」資料/経済産業省「中小企業経営強化税制」概要
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
