医療・介護費用をどの資金で賄うか― 老後の不確実な支出にどう備えるか ―

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老後資金の設計において、もっとも予測が難しいのが医療費と介護費用です。
生活費はある程度見通しを立てられても、病気や要介護状態になる時期や期間は誰にも分かりません。

社長や個人事業主の場合、役員退職金、新NISA、iDeCo、公的年金など、複数の資金源を自ら管理する立場にあります。
本稿では、老後に発生しやすい医療・介護費用を、どの資金で賄うべきかという視点から、現実的な考え方を整理します。


医療・介護費用の特徴

医療費や介護費用の最大の特徴は、「不定期」「不定額」「長期化しやすい」という点にあります。
軽度の治療で済む場合もあれば、慢性的な疾患や長期の介護が必要になることもあります。

また、支出のタイミングが集中しやすい点も見逃せません。
一定期間、毎月の生活費に加えて医療・介護費用が上乗せされるため、資金繰りに大きな影響を及ぼします。


公的制度がカバーする範囲

医療費については、公的医療保険と高額療養費制度によって、自己負担額には一定の上限が設けられています。
介護についても、公的介護保険によってサービス費用の大部分はカバーされます。

ただし、これらの制度は「最低限の生活を支える」ことを目的としたものです。
差額ベッド代、先進医療、介護施設の居住費や食費など、公的制度の対象外となる支出も少なくありません。

そのため、医療・介護費用は「公的制度+自己負担」の二層構造で考える必要があります。


医療・介護費用に向く資金の条件

医療・介護費用を賄う資金には、いくつかの条件があります。
第一に、必要なときにすぐ使える流動性があることです。
第二に、金額や期間が読めないため、取り崩しの柔軟性が高いことです。
第三に、長期化しても対応できる持続性があることです。

この条件を満たすかどうかを基準に、各資金の役割を考えると整理しやすくなります。


退職金は「初期対応の資金」

役員退職金は、多くの場合、一時金で受け取ります。
まとまった金額があるため、退職直後に発生する医療費や、介護開始時の初期費用には対応しやすい資金です。

一方で、退職金は使えば減っていく有期型の資金です。
長期間にわたる介護費用をすべて退職金で賄おうとすると、老後後半の資金不足につながる可能性があります。

そのため、退職金は「初期対応」や「一時的な大きな支出」に役割を限定する考え方が重要です。


新NISAは「継続的な補填資金」

新NISAで形成した資産は、医療・介護費用への対応力が高い資金といえます。
必要なときに必要な分だけ売却でき、取り崩しのタイミングや金額を柔軟に調整できるからです。

また、医療・介護が長期化した場合でも、運用を続けながら段階的に取り崩すことが可能です。
その意味で、新NISAは医療・介護費用に対する「継続的な補填資金」として機能します。


iDeCo資金の使いどころ

iDeCoは老後専用の資金ですが、医療・介護費用にも使えます。
ただし、原則60歳まで引き出せない点や、受取方法によって性格が変わる点には注意が必要です。

年金形式で受け取る場合、毎年の医療費負担を補う定期収入として活用できます。
一時金で受け取る場合は、退職金に近い性格を持ちますが、使い過ぎには注意が必要です。


公的年金は「生活費優先」が原則

公的年金は、老後生活の土台となる収入です。
医療・介護費用に直接充てるというよりも、まずは日常生活費を賄うことを優先すべき資金です。

生活費を年金で確保できていれば、医療・介護費用は他の資金で対応しやすくなります。
年金を医療費のために取り崩す設計は、長生きリスクを高める可能性があります。


実務的な役割分担の整理

実務的には、次のような役割分担が一つの目安になります。
医療・介護の初期費用や一時的な支出は退職金で対応します。
継続的・長期的な費用は新NISAで補填します。
生活費の基盤は公的年金で確保し、iDeCoは不足分の補完として活用します。

このように分けて考えることで、費用が長期化しても対応しやすくなります。


社長・個人事業主が注意すべき点

社長や個人事業主に多いのが、「保険で何とかなる」という発想です。
民間保険は一定の役割を果たしますが、すべての医療・介護費用をカバーできるわけではありません。

最終的に頼れるのは、現金化できる資産です。
制度と資産を組み合わせて備える視点が不可欠です。


結論

医療・介護費用は、老後資金の中でもっとも不確実性の高い支出です。
そのため、流動性と柔軟性の高い資金を中心に備えることが重要になります。

退職金は初期対応、新NISAは継続的補填、公的年金は生活費、iDeCoは補完的役割という分担を意識することで、医療・介護費用への備えは現実的なものになります。
老後の安心は、資金の額だけでなく、どの資金をどう使うかによって大きく左右されるといえるでしょう。


参考

・日本経済新聞「新NISA、2年目は7%増の12兆円 資産形成、インフレで拡大」(2025年12月30日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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