医療・介護と相続対策の接点― 老後資金と相続は別物ではない ―

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老後資金の話題と相続対策は、しばしば別々に語られます。
老後は「自分の生活のため」、相続は「残された家族のため」という整理がされがちだからです。

しかし実務の現場では、医療・介護費用の負担の仕方が、そのまま相続の結果を大きく左右する場面を数多く見かけます。
どの資金で医療・介護費用を賄ったかによって、残る財産の種類や分量、さらには相続人間のトラブルの有無まで変わってきます。

本稿では、医療・介護と相続対策がどこでつながっているのか、その接点を整理します。


医療・介護は「相続直前の支出」になりやすい

医療・介護費用の特徴の一つは、人生の最終盤に集中しやすい点です。
長期間にわたる介護や、最期の医療費は、亡くなる直前まで発生することがあります。

このため、医療・介護費用は「老後資金の問題」であると同時に、「相続直前の資金管理の問題」でもあります。
どの資産を使ったかによって、相続財産の姿は大きく変わります。


相続対策は「残す額」より「残り方」が重要

相続対策というと、相続税をいかに減らすかに意識が向きがちです。
しかし、実際に相続で問題になりやすいのは、金額そのものよりも「どんな形で残ったか」です。

現金が多く残っていれば分けやすい一方、不動産や自社株ばかりが残ると、分割が難しくなります。
医療・介護費用の支払い方は、この「残り方」に直接影響します。


医療・介護費用を現金で払う場合の影響

医療・介護費用を、預貯金などの現金で支払い続けた場合、相続財産は次第に減少します。
現金は使えばそのまま減るため、相続税の面ではシンプルな結果になります。

一方で、現金が減りすぎると、相続時に残る財産が不動産や事業用資産に偏りやすくなります。
これが、相続人間の分割トラブルの火種になることがあります。


新NISA資産を使う場合の特徴

新NISAで形成した資産を医療・介護費用に充てると、相続財産の構成に特徴が出ます。
新NISAは売却して現金化することで使うため、「使った分だけ確実に減る資産」です。

また、非課税で運用してきた資産を取り崩すことにより、相続時には評価が膨らみすぎるのを防ぐ効果もあります。
新NISAは、医療・介護費用と相続のバランスを取るための調整役として機能します。


退職金を医療・介護費用に使う場合

役員退職金は、老後資金としては大きな柱ですが、相続の観点では注意が必要です。
退職金を医療・介護費用に充てると、その分、相続財産は減少します。

これは一見すると相続税対策に見えますが、退職金はそもそも相続税の課税対象になる前に受け取る資産です。
そのため、退職金をどう使うかは、「相続税を減らす」というより、「残す財産の質を整える」意味合いが強くなります。


介護が長期化した場合のリスク

介護が長期化すると、想定以上に資産が減少することがあります。
その結果、相続時に「思ったより何も残らなかった」という事態も起こり得ます。

この場合、相続税の問題は生じにくくなりますが、家族の間で「どこまで使ってよかったのか」という感情的な問題が生じることがあります。
医療・介護費用と相続対策を切り離して考えていると、この点が見落とされがちです。


家族との共有が最大の相続対策

医療・介護費用と相続の接点で最も重要なのは、「事前の共有」です。
どの資金を使って医療・介護費用を賄うのか、その結果として相続財産がどう変わるのかを、あらかじめ家族に伝えておくことが重要です。

特に社長・個人事業主の場合、事業用資産や自社株が残るケースが多く、医療・介護費用の支払いによって分割の難易度が変わります。
説明のないまま資産が減ってしまうと、相続時の不信感につながりかねません。


実務的な整理の考え方

実務的には、次のような整理が一つの目安になります。
医療・介護費用は、流動性の高い資産(現金や新NISA)を中心に賄います。
事業用資産や不動産は、極力手を付けずに残す設計を意識します。
そのうえで、相続時にどの資産が残るのかを定期的に確認します。

この整理を行うことで、老後と相続を一本の線でつなぐことができます。


結論

医療・介護費用の支払い方は、老後資金の問題であると同時に、相続対策そのものです。
どの資産を使うかによって、相続財産の量だけでなく、形や分けやすさが大きく変わります。

社長・個人事業主にとって重要なのは、「相続のために使わない」のではなく、「相続を見据えて使う」という視点です。
医療・介護と相続を切り離さず、一体として設計することが、家族にとっても現実的で納得感のある対策といえるでしょう。


参考

・日本経済新聞「新NISA、2年目は7%増の12兆円 資産形成、インフレで拡大」(2025年12月30日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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